snowwhite

フルメタル・ジャケットのsnowwhiteのレビュー・感想・評価

フルメタル・ジャケット(1987年製作の映画)
3.8
戦争映画が嫌いな私が何故この映画に手を出したかと言うと言わずと知れたスタンリー・キューブリック監督作だからだ。やっぱり観ておかねばならないかと。




【ネタバレあります】
新しく入ってきた兵士たちの頭を次々と丸刈りにするシーンから始まる。やっぱり上手いね。掴みはOK。

新入りはズラッと並べられて鬼軍曹の訓辞(?)だ。下劣な言葉のオンパレード。大声で怒鳴りながら延々続く下品な言葉の数々。

(アメリカの軍隊って本当にこんな感じなのか?60年代はこんな感じだったのか?それとも映画だから?色々な疑問が湧く)

鬼軍曹はなおも兵隊たちをいたぶる。一人一人難癖をつけては侮辱していく。怒鳴り付けながら殴り付けながら…。

軍曹は肥ってる奴が嫌い。肥ってて愚鈍なレナート(ヴィンセント・ドノフリオ)は目をつけられる。毎日毎日罵られ殴られる。少し脳に障害でもあるのかニヤニヤするので微笑みデブと名付けられる。

しごかれてもしごかれても上達しないレナート。肥っているから運動神経も悪い。

(これだけしごかれたら痩せそうなものなのに痩せる気配もない。)


ジョーカーと名付けられた主人公(マシュー・モディーン)が何かと面倒を見てやる。訓練中だけではなく訓練が終わってもレナートが出来るようになるまで教えてやる。

ある日いつもの様に軍曹が皆の点検をしているとレナートが鞄に鍵を掛けてないことに気付く。早速叱り飛ばし中を確認。すると中からドーナツが。お腹が空いたレナートが厨房から隠し持ってきていたのだ。

軍曹はレナートを叱りつける代わりに他の皆に罰を与えたレナートにはドーナツを食べるようにと命令をする。腕立て伏せをずっとさせられる兵士たち。嬉しそうに食べるレナート。

(このレナートが嬉しそうに食べるのが何とも痛ましい。)

その夜、仲間に拘束され皆から殴られるレナート。最後に残ったジョーカーはためらうが、仲間にやれと指図され仕方なく殴る。

兵士たちは次に銃の訓練を受ける。意外な事にレナートは銃の才能があった。初めて軍曹に褒められる。しかしレナートの神経は限界に来ていた。ジョーカーはレナートを心配するが…。精神が病んでるからもうすぐ除隊になるんじゃないかと仲間は噂する。

(この頃からレナートの目付きが変わっていくのが怖い。)


【この後ラストまでの完全ネタバレします】



ある日、訓練中ではないのに銃に玉を込めるレナート。ジョーカーがなだめて止めさせようとするが叫び出してジョーカーに銃を向ける。

騒ぎを聞き付けて駆けつける軍曹。いつもの口調で銃を渡せと命令するが目付きの変わったレナートは渡そうとしない。

レナートは軍曹を撃ち殺しジョーカーにまた銃を向ける。

(あんなに親切にしてくれたじゃないの。レナート忘れちゃったの?目が座ってしまってるからとにかく怖い)

レナートは自分に銃を向け、ジョーカーの「止めろっ!」という制止も聞かず自殺してしまう。

(精神が病んでたからもうすぐ除隊になったでしょうに…。
おデブのレナードが軍曹を撃ち殺して自殺するシーンは衝撃であった。)

その後突然シーンが変わってナンシー・シナトラ の🎵にくい貴方 が流れる。画面の色合いもはっきりしてなんとも上手い転換だ。

ジョーカーたちはもう訓練兵ではない。実際の戦地で戦う兵士となって何年か経っている。

従軍カメラマンが銃撃戦の様子を撮影するシーンが出てくるがカメラマンも命懸けだ。
カメラマンは結局撃たれて犠牲となる。

兵士達は段々精神が麻痺してくる。もう怖さも感じないらしい。隊長が撃たれたら敵討ちに躍起となり制止も聞かず銃を撃ちまくる。

戦車が来るまで待つようにと言われても聞こうとしない。
戦車を待っていたのでは間に合わない。戦うべきだと。結局押しきられて戦う道を選ぶ。

やっとのことで相手の狙撃班を仕留めると女性だった。このまま捨ててはいけないというジョーカー。ネズミにでも喰わせればいいんだ。という仲間。

狙撃班は命絶え絶えに言う。
「殺・し・て」「私を撃って、撃って。」

(Shoot me. Shoot me.というベトナム人の表情が何とも言えない。撃たれた痛みに耐えかねているせいもあるが意識があるのにネズミに喰われる所を想像しただけで恐怖だ。)

どうする?撃ちたいならお前がやれと仲間が言う。ジョーカーは迷った末彼女を撃つ。

連帯は勝利を納めミッキーマウスの歌を歌いながら撤退していく。

エンドロールでローリング・ストーンズの🎵Paint it, Blsck (黒くぬれ!)end




流石キューブリックの映画。他の戦争映画とは一味も二味も違う。キューブリックらしい。

レナートが精神を病んでいくシーンが恐かった。
実際ベトナム戦争で精神を病んだ人がどれ程いたことか。上官による虐めだけでなく、過酷な戦地での体験により多くの人が精神に異常をきたした。『スタンド・バイ・ミー』でも戦地から戻った父親が精神を病んでしまっている描写が出てくるが本当に多くて社会問題となっていた。

また、映画には出てこなかったが兵士の恐怖を緩和するため軍は兵士に麻薬を与えていた。その為、戦地から帰っても麻薬中毒から抜け出せない人も多かった。

私はアメリカに2年間程住んだことがあるが、気が触れたホームレスがやたらと多くてビックリした。すれ違っただけで襲いかかる様な素振りを見せる年老いたホームレスに何度出会ったことか。私は彼らの頭は麻薬により破壊されてしまったのではないかと思っている。そして従軍した際に中毒になってしまい職にもつけずホームレスとなった人も少なからずいるのではないかと思う。

それにしても鬼軍曹、よくまああれだけ怒鳴り続けていられるものだ。あんなに怒鳴ってたら次の日声が出なくなりそう。軍曹役のR・リー・アーメイさん凄いなと思って観ていたのだが、この方本当の海軍の退役軍人で教官 も勤めていたそうだ。

ウクライナのニュースで戦地の写真や動画が流れることがあるが、玉や爆弾が飛び交う映像をどうやって取ったのだろうと以前から思っていたのが、正に映画の中で描かれたように命を掛けて撮影しているのだろう。映画の中でカメラマンは死んでしまった。あれ程近距離で撮影していれば実際亡くなるカメラマンもいるだろうと思う。

最後のミッキーマウスの歌が不気味だった。ネズミに喰わしてしまえという言葉とも相まって恐い。それにしてもあのアメリカ軍の兵士達はどうして歌いながら行進したり走ったりするんだろう?しかもくだらない歌詞が多い。いつも不思議でならない。

因みにミッキーマウス・クラブマーチを歌った理由はこうだ。

実際の戦地で18才ぐらいの海軍兵士が歌ったらしい。歌詞は「MICKY MOUSE」ではなく「FUCKED AGAIN」と歌ったらしいけど、この兵士は数年前までミッキーマウスを無邪気に観ている少年で本当に幼い少年までが兵士として駆り出されていた象徴としてこの歌を歌わせたということだ。これは原作に描かれていてキューブリックのアイデアではない。

エンディングのローリング・ストーンズの🎵黒くぬれ!(Paint it,Black)を使った理由は全て黒く塗りつぶすという意味もあるが60年代を代表する曲として丁度いい頃にこの曲が出てきたからだそうだ。これはキューブリック自らがインタビューに答えている。

レナートを演じるに当たってヴィンセント・ドノフリオは40kg増量して役に挑んだ。
映画撮影後からだを壊し心臓に問題が出て入院することとなった。

鬼軍曹の汚い罵りの言葉にキューブリックはこだわり自ら日本字幕を監修した。当初戸田奈津子が翻訳したた字幕を再英語化したものを読んで甘すぎると怒り、原田眞人に変更することとなった。

因みに原田眞人は俳優として『ラストサムライ』に出演したり、監督として『突入せよ! あさま山荘事件』『金融腐蝕列島〔呪縛〕』 等を監督している。
snowwhite

snowwhite