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フルメタル・ジャケットのpikaのレビュー・感想・評価

フルメタル・ジャケット(1987年製作の映画)
4.5
噂に違わぬハートマン軍曹の"教育"に序盤から完全にやられた。
思わず笑ってしまうほどの徹底的な"教育"だけで魅せる20分。
耳に入る言葉とは裏腹に、うっとりするほど美しいカットの洪水が相反しているようで絶妙に気持ちがいい。

キャラクターに感情移入するというよりもキャラクターと共に海兵隊となってその場に居るようであり、映画に引き込まれると言うより体感していることに気づく。

戦うために訓練し、兄弟と共にただ殺すために戦場へ向かう。
心の準備などする暇はない。弾丸はいつでも飛んでくる。
狂ったのはどちらか、人間らしいのは誰なのか、体感し訓練を受けた観客の目には何が狂気と映るのか。

兵士という存在を外側から表現するのではなく、訓練学校で徐々に人間から兵士へと変わっていく感覚、戦場で生きる人間の精神の抑揚、感情の振り切りを端的に鮮やかに切り取る。

登っているように見える階段は、実は降りている階段であるように、どちらへ向かっているのか、何が正しいのか己の思考では判断が出来なくなるような生々しい感覚を手のひらに感じる。

張り詰めた緊張感とのどかな休息時間の隙間の対比、対比ではなくいつ畳み掛けられてもおかしくない現実であり、スイッチの切り替えが絶妙に生々しく見事。
無駄のない台詞、心の中にジトリとこびりつく。
聞こえない言葉、発してはいないのに見えてくる感情。
忘れていた感情、奮い起された記憶が脳裏にこだましているのが見て取れる。

何のためにここにいるのか、戦争とは一体何なのか、キューブリックの巧みなる魔法によって116分間彼らと共に体感した私は、見ていただけなのに己の中から自然と脳裏に答えが浮かんできた。
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