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夜も昼ものBaadのレビュー・感想・評価

夜も昼も(1946年製作の映画)
4.0
冒頭のエール大学~帰省のシーンは思わず若大将シリーズを思い出してしまいました。加山雄三さん、こういう世界に憧れていたんだろうなあ。その後、奥さんと出会って結婚するまでは「グレン・ミラー物語」。
主人公夫妻がハイソサエティー出身の複雑な背景の人だったため、美談仕立てにするにしても、スチュワート=アリソンのようには、ストレートにはいかなかった訳ですが、「グレン・ミラー物語」は間違いなくこの映画を意識していますね。
かすかに翳りを漂わせたこの物語は、恋愛映画としてはなんだかよくわからない部分が多いのですが、夫婦ものとしてはまあ悪くはありませんでした。

物語は当時の娯楽映画の文法とスタジオシステムに則って、都合良く書き換えられており、平たくいえば、当時の大衆が求めたミュージカルの作曲家コール・ポーターの虚像を描いている映画なのですが、アメリカの繁栄の時代を前にしているためか、どこかてきとーで(?)前向きなエネルギーが感じられます。

妻・リンダとの関係は、数年前公開された映画、『五線譜のラブレター』に、より実像に近いかたちで描かれていますが、映画全体を比べてみるとどちらを見たらコール・ポーターが理解し易いかは微妙なところ。

なにより、ボーターと親交があった役者さん達が実名で登場し、ミュージカルシーンも近い時代の演出が見られる、という点では、この映画には得難い魅力があります。その<虚>の部分も含めて、ポーターの生きた時代の雰囲気を体感するには優れた作品といえるかもしれません。

ケイリー・グラントさんのボーター役は加山雄三さんみたいで(しつこくてごめんなさい)なかなかに決まっていますが、妻役のアレクシス・スミスが全く印象に残らないのが残念です。

その代わりと言ってはなんですが、ミュージカルの歌手やダンサー役で出演している女優さん達のキャスティングがなかなか癖があって豪華です。
演技派女優で完全に妻役を喰ってしまっているジェーン・ワイマンのミュージカルシーンがいくつか見られるのもみつけもの。従妹役のドロシー・マローンは、とても美人に映っている上、歌も歌いますが、これは吹き替えではなさそうです。
本人役で出演したメリー・マーティン、作中にもエピソードが描かれている”My Heart Belongs to Papa"で世に出た人ですが、ポーターのブロードウェイデビューを支えた歌手として出演しています。ミュージカルシーンはどれも素晴らしいのですが、踊りはバレーに近い、雰囲気のあるものが多く、テンポがゆっくりしているので、合わない人には退屈かもしれません。
恩師の教授役で出演しているウーリーは、本人役で出ている役者さんで、実際にもポーターのエールでの同級生だったとか。

映画の演出は職人芸的に手堅く優れている、という域を出ていませんが、この時代の映画に多少とも親しんでいる人ならば、ごひいきの役者さんを思いがけないところで見つけて楽しんだり、スタジオのシステムのありようを体感したり、といろいろと楽しみのある映画です。

私は、60年代以前のハリウッド映画が好きなのでとても楽しめましたが、その人の嗜好によって大きく評価が変わる映画だと思います。

(<若大将>から<グレン・ミラー>へ 2011/1/27記)
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