こたつむり

長ぐつをはいたネコのこたつむりのレビュー・感想・評価

長ぐつをはいたネコ(2011年製作の映画)
4.0
♪ 懐かしい歌も 笑い声も
  すべてを捨てて僕は生きてる

“あの”『シュレック』の番外編。
…ということで斜に構えて臨みましたが、想像に反して直球ど真ん中。完全に振り遅れましたね。見事なまでに傑作でした。

しかも、考えれば考えるほど隙がありません。
メインのターゲットである子供から見たらワクワクとドキドキが詰まった冒険譚ですし、保護者目線で捉えればアントニオ・バンデラスの色気を楽しめる活劇になるのです。

それゆえにヒロインの造形も見事な限り。
ネコとネコがじゃれあっている場面でも、何故だかセニョールとセニョリータの熱い抱擁に見えてくるから不思議な話。褐色の肌に浮かび上がる珠の汗…なんて想像するのも大人の楽しみですね。うへへへ。

それでいて、少しだけ“ほろ苦さ”もあって。
特に《ハンプティ》の立ち位置は、胸の奥をかき回すほどに痛くて。身勝手な奴なんですけどね。彼の気持ちも分からないではない…のです。大人ならば。

また、微妙に感じる“狂気”もアクセント。
料理で例えるならば、仕上げで振りかける塩コショウ程度の分量ですが、舌にピリリと来る感覚がないと寂しいものですね。

そして、何よりも素晴らしいのは“アレ”。
意地が悪い視点で捉えると、ただの消化不良。
でも、答えを提示しないことで、鑑賞後に子供と話す“きっかけ”が生まれるわけで。それって地味だけど大切なことですよね。

…と本当に隙がない作品なのですが。
あえて難点を挙げるとしたらビジュアル面。
『シュレック』本編よりも毒々しさは薄いですし、長ぐつをはいたネコは普遍的に可愛くてもインパクトに欠けますからね。訴求力の観点で言うと“地味さ”は否めません。勿論、物語には関係ない話ですけど。

まあ、そんなわけで。
悪党との追いかけっこから、空に拡がる大冒険まで。子供の目が輝く童話の異聞録。できましたら『シュレック』を楽しんだ後にオススメします。
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