Mikiyoshi1986

銃殺のMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

銃殺(1964年製作の映画)
4.0
1月14日はジョセフ・ロージー監督の生誕日に当たります。
存命ならば今日で109歳に。

50年代のアメリカで熾烈を極めた赤狩りはロージーをイギリス亡命へと追いやり、彼はその怒りと反骨精神をバネに問題作を次々と発表。

その代表作のひとつに挙げられるのが戦場の不条理を描いた『銃殺』であり、
イギリス時代のロージーと4度に渡ってコンビを組んだ名優ダーク・ボガードは『召使』に引き続いて本作が2度目の出演となります。

かつてロージーがアメリカ時代に監督した長編デビュー作『緑色の髪の少年』は痛烈な反戦映画でありましたが、
本作も直接的な交戦を描くことなく、実際の凄惨なスチール写真を交えながら脱走兵ハンプの軍法裁判を通して
戦争の偽善と虚無を我々の前に暴き出します。

舞台はWW1、降りしきる雨によって一面泥に覆われたイギリス軍駐屯地。
脱走兵は基本的に銃殺刑という通例の中、茶番とも云える裁判劇で雄弁に弁護するハーグリーヴズ大尉をボガードが好演します。
戦場での辛い経験が積み重なったある日、帰郷本能によって区域外をフラフラ歩いていたというハンプ。

3年もの間、己の命を省みず国の為に尽くしたとしても、たった一度の失態で脱走兵と見なされ、仲間の手で銃殺刑に処されるという不条理。
戦争という非人道的な行為の本質を抉り出したロージーは本作に皮肉を込めて『King & Country』と名付けています。

それは前述通りロージーもかつてマッカーシズムという国と世論の風潮によって祖国から淘汰された一人であり、
劇中でドブネズミが兵士たちにジワジワいたぶられる裁判シーンはハンプを介したロージー自身の投影でもあります。

また神への不信も巧みな演出で描かれており、ロージーのエッジな作風は社会の矛盾を痛烈に告発する気概に満ちているのです。
Mikiyoshi1986

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