レバノン出身の劇作家、ワジディ・ムアワッドの戯曲を原作とした、ドゥニ・ヴィルヌーヴ初期の代表作。
まったく予備知識なしで観たので時期や場所を特定するテロップの不在や聞き慣れない地名に「中東近代史、よくわかってないしなー」なんて思いつつやり過ごしてたんですが、なんのことはない、これって母親の母国であり主要の舞台となる中東の国は架空という設定なのね。
とはいえ70年代という時期や宗教間の対立構図などはやはりムアワッド氏の出身地であるレバノンの内戦がモデルになっているのだろう。
で、結果としてその抽象性が普遍性へと昇華されている感があって、例えば今のタイミングで観るとイスラエル/ガザの情勢や宗教に紐付いた中絶にまつわる法改正などに思考が及ぶという。
「地獄ファミリーヒストリー」とでも言うべきあまりに凄絶なストーリーは観客を選ぶエッジをギラつかせつつ、戯曲由来であろう起承転結のしっかりした構成とミステリ要素がエンタメ性を担保。
極限状況における人間の倫理を透徹したトーンで描き出す、硬質な衝撃作です。