いしはらしんすけ

ミュンヘンのいしはらしんすけのレビュー・感想・評価

ミュンヘン(2005年製作の映画)
3.8
1972年のミュンヘンオリンピックでのパレスチナ武装組織、黒い九月によるテロ事件とそれに対するイスラエルの諜報機関、モサドの報復作戦を描いたノンフィクション小説を原作とした、スピルバーグ作品。

2024年の今観るには題材的にあまりにタイムリーで、2005年当時以上に複雑な感情が去来する観客がほとんどだと推察されるが、同年公開の「宇宙戦争」同様、9・11の影響は象徴的なラストを中心にそこかしこに散在。

その簡単に結論の出ない世界的/社会的課題の重さをノワールっぽい重厚さとして昇華させ、結局164分の長尺を一切ダレるとことなく見せ切ってしまう手管は、もはや悪魔的とすら思える。

このあたり「フェイブルマンズ」を踏まえるなら明らかに自覚的で、要は「面白くせずにいられない」業の深さを「ああ面白いなぁ」と感じてしまうこちらまで共有されられるというのが、いやはや困ったもんだ。

さらに最近はやや修正気味とはいえ、去年末ぐらいのスピルバーグによるイスラエル/ガザ問題に関する発言は明らかにユダヤ人としての党派性が前面に出ていて、本作のテーマであるはずの「報復の連鎖の不毛」を理解していない?もしくは変節?ととられかねないもので、もう何が何やら。

つまるところ「映画でしか言えない」スピルバーグの、良くも悪くも映画モンスターぶりが際立つ、作品としては文句のつけようがない傑作です。