いしはらしんすけ

オッペンハイマーのいしはらしんすけのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.9
今年のアカデミー賞で作品賞、監督賞をはじめ7冠に輝いた、クリストファー・ノーラン最新作。

受賞結果によるバイアスは当然ありながらまず思ったのは「アカデミーが好きっぽい映画だなぁ」との感慨。

史実をベースにしたシリアスな評伝で俳優の演技の見せ場たっぷりかつ映像ゴージャス。そしてぐうの音の出ない正論メッセージどーんな大作ってのは、狙いにいったかどうかは知らんがノーランのフィルモグラフィとしては稀有と言える。

勿論そんな題材ですらわかりやすさを意図的に排した説明の過小さとシームレスな時制いじり、そして映える爆破を擁したアナログ徹底主義といったノーランドクトリンは断固として維持。

結果「らしさ」もたっぷり味わえる作品に帰着しているあたり、作家としての成熟が確かに見られる気がしました。

でもって最も感銘を受けたのが過去作ではややもすると弱く感じられた主人公の人間ドラマが濃厚でリアルな質感をもって描き込まれている点。

序盤の腺病質で生きづらそうな若き秀才から女性関係も含めたオラオラ期を経て原爆投下以降の深い悔恨を抱えた鬱晩年という変遷は、事実に基づいているとはいえ、下手すると一貫性ないキャラに見えなくもない。

ところがアカデミー主演男優賞受賞のキリアン・マーフィーの名演に加え、監督という立場からくるある種の万能感や無力感、名声と嫉妬からくる誹謗中傷など、見事にオッペンハイマーとシンクロしたノーランの自己投影が、リアリティのあるキャラクター造型へと結実。

その実在感を求心力に紡がれる複雑な物語が、演技達者な名優たちの競演によってさらに分厚さを増すというね。

これはノーランだけの問題ではないものの「ダークナイトライジング」ではあんなにいい加減だった核兵器への認識が、オッペンハイマーを描くにふさわしい真摯さにまで到達しているのにも感心&得心。

とか言うと3時間という長尺もあり教科書的な堅苦しい映画みたく思われそうだが、先述した通りそこはノーラン作品相応のエンタメ性はしっかり配備。

何気にツボだったのは未だに天然なのかボケなのか判断に迷うノーランユーモアで、川崎麻世の不倫釈明会見におけるカイヤを連想させる(例え古すぎ)「オッピー、あの女とまだ...」なエイミー・アダムスの顔芸とか最高でした。いやエイミーさん、そこ以外もさすがの無双名演でしたが。笑

前作「TENET」から続投のルドヴィグ・ゴランソンの音楽も相性バッチリでドラマ性を大幅増幅。

正直ロジックより詐術性が優先されている感のあるノーランSFは微妙に勘所外してんなーと常々感じている身としては、なんか語弊あるかもだけど最高傑作かも?なんて思わなくもない、ノーランニューステージの1作か、と。