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ションベン・ライダーのblacknessfallのレビュー・感想・評価

ションベン・ライダー(1983年製作の映画)
3.9
中学生3人組がヤクザに誘拐された同級生を助けに横浜から名古屋に旅をするジュブナイル的なロードムービー。

ヤクザに誘拐された同級生を救出しようするから、どんだけ仲良しなのかと思いきや誘拐された"デブナガ"って少年はデブのいじめっ子で主人公3人をいじめてた。3人はデブナガに仕返しをするために助けに行く。珍しいパターンだよね笑

主人公3人は"ジョジョ"(永瀬正敏)と"辞書"(坂上忍)の男2人に"ブルース"(河合美智子)の女1人の組合せ。

相米慎二監督と言えば『台風クラブ』でも分かるとおり思春期の少年少女のキラキラ感や狂気や懈怠を鮮烈な演出で撮ることに定評がある。
なので、この3人もかなり眩しく、時に痛々しく、危うく魅力的に撮れてる。

子供達がヤクザの覚醒剤取引に巻き込まれ、死人も出るハードな展開だけど、焦点は少年少女の心の揺らぎに当てられ、そこをリリカルに救い上げる演出で凄絶感はなくとってもメロウな質感。ヌーベルバーグのようなスタイリッシュさとオフビートを想起させる。
日本映画っぽくないんだよな。日本が舞台なのに異国の少年少女を見てるような。

『スタンド・バイ・ミー』に似てるけど、ノスタルジーはなく、旅をきっかけに大人に成長するような分かりやすいカタルシスもない。
あくまで現行の少年少女の目線で世界を写し出す。だけに大人が頭で考えた子供ではなく、大人が失ったこの時期特有の大人の価値や感性では理解できないリアルな子供の不気味だけどキラキラした感情を観ることができる。

要するに『台風クラブ』と同じ映画なんだけど、何故か『台風クラブ』ほど評価されてない。それが不思議でならない。
『台風クラブ』は子供にここまでやらすのかって演出が話題になって今も語り草になってるけど、そういう意味ではこの『ションベン・ライダー』も負けてない。

まずアクションがヤバい。自転車でトラックに並走してトラックの荷台に乗り移る。高さが数メートルある橋から川に落下する。これをノンスタントで当時本当にミドルティーンであろう、永瀬正敏、坂上忍、河合美智子にやらせてる。アクション的な演出じゃないドキュメンタリーなリアルタッチで撮ってるから見ていてハラハラした。

それと『台風クラブ』で一番話題になる少年少女が下着姿でずぶ濡れ状態で「もしも明日が」を熱唱して踊り狂って感情を爆発させるシーンだけど、こっちにも同じシーンがある。
誘拐されたデブナガが救出して心身ともに疲弊した3人が現場に散乱した白い粉(シャブ)まみれになり近藤真彦の「ふられてBANZAI」を振り付きで熱唱する。
このシーンのハイボルテージな狂騒は圧巻。そんな意図はないんだろうけど皮膚についたシャブでキマってるようにしか見えなかった笑
流れを無視して唐突に始まるからハッとした。

だから『台風クラブ』よりこっちの方がめちゃくちゃやってて過激ですごいんじゃないかと思った。
よりヤバい演出を子供にさせてるし笑

特にヤバいのはブルース(河合美智子)、彼女は終始男の子口調で話して、ことあるごとに「僕は男だ!」ってイキる。
みんなで銭湯に入るシーンでは胸にタオル巻いて男湯に入る。幸い(と言ってもいいのか)胸が平板なのでそんなストレートにエロくないけど、入浴客に、女では?、と疑われて「僕は男だ!」と怒鳴り胸のタオルを外して見せる。背中から撮ってるから見えないけど確実に入浴客から見える。これは確実なアウトなやつなんじゃないかと、、それと例の「ふられてBANZAI」のシーンではダルッダルのタンクトップにノーブラで踊るから脇から見えそうであぶない。
少女にこれだけ体当たりな演技させてる意味でも『台風クラブ』越えしてるんじゃないかと思う。
映画の後半から河合美智子は坊主頭にされてるし、この振り切れた熱演が語り継がれてないのはあまりに不憫だと思うので、観てない人は「ションベン・ライダー」観て、河合美智子を讃えるように笑
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