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火の馬のdiesixxのレビュー・感想・評価

火の馬(1964年製作の映画)
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ウクライナの山岳集落を舞台に、古典的なロミオとジュリエット式の悲恋物語…と思いきや、近しい人の死に縁取られた男の呪われた一代記であった。自由闊達に躍動するカメラと象徴的な色彩配置などパラジャーノフの基本的なシグネチャーはここで花開く。
原作はロシア帝国支配下でウクライナ文学の復興に努めたムィハーイロ・コツュブィーンシクィイで、本作も全編ウクライナ語によって撮影された。キリスト教のモチーフが強い印象を残しつつ、土着的な風習も描かれ、感情表現豊かなキャラクター描写などアメリカ映画やヨーロッパ映画と一線を画しているものの、ソ連の目指す芸術観としても異端であり、パラジャーノフはそのままソ連の映画界で孤立を深めていく。
イヴァンを庇って木の下敷きになった兄を俯瞰から捉えたショットや、決闘で片方が斧を振り下ろすと画面にどろりとした血液が垂れてくる…などのっけからテンションの高い描写で度肝を抜かれる。イヴァンとマリーチカが成長し、愛情を育む場面は自然光を生かした温かな空気感、そこからマリーチカに悲劇が襲いかかり、イヴァンはモノクロームの世界へと落ちていく。
失意のイヴァンに、パラーフナという女性が恋し、再び画面は色づき始める。しかし、イヴァンはマリーチカの精霊に取り憑かれ、パラーフナを愛することができなかった。パラーフナはイヴァンに愛されたいと努力しているので、最終的には怪しい呪術師と不倫するのだが、なんだか気の毒な気持ちになる。
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