YasujiOshiba

傷だらけの挽歌のYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

傷だらけの挽歌(1971年製作の映画)
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 字幕なしでYTにアップされていたものを鑑賞。

 この10月6日に亡くなったスコット・ウィルソン(1942 - 2018)追悼。この映画は初見だけど、知恵の遅れのギャング、スリム・グリッソムを演じたウィルソンは、とりわけその表情の演技が圧倒的だった。

 そのスコットの相手役で、誘拐されるミス・ブランディッシを演じたのはキム・ダービー。当時24歳ぐらいだけど、ちゃんと高校生ぐらいのお嬢さんに見える。でも、映画が終わるころにはぐっと大人になっているのは見事。前の年に『いちご白書』(1970)でリンダを演じてるダービーちゃん、こっちも見直したくなってきた。

 ロバート・アルドリッチという監督の映画では、『北国の帝王』(1973)と『ロンゲストヤード』(1974)がぼくの青春の作品なんだけど、これまで『傷だらけの挽歌』は見る機会がなかったんだよね。いやあ、YTのSD画質だけど、見ることができてよかった。

 アルドリッチの眼差しというのは、じつに反社会的なことをやっている男たちの、どうしようもなくねじ曲がった性根のなかに、きらりとしたカッコよさに焦点をあてて、そいつに思いがけない輝かきを見つけ出してくれる。だから、この映画でもすぐには感情移入できる相手がみつからない。

 男たちはずっと汗だくで、すぐに銃をぶっ放すし、マシンガンがうなり、手榴弾が投げ込まれ、かんたんに血を流して絶命する。美しい女たちも同じで、口汚くいかにもお下品。探偵フェンナー(ロバート・ランジング)にしても、たんなる狂言回し。

 いきおい、ミス・ブランディッシュと知恵遅れのスリムのふたりが、少しずつだけど浮かび上がってくると、お決まりのラブストーリーにどこまでも反抗するラブストーリの主人公になってゆく。まさにアルドリッチ節だよな。

 ところでこの作品、時代設定が1930年代だからというのもあるけれど、どこかおとぎ話的な雰囲気がある。それってもしかすると、ハドリー・チェイスの原作『ミス・ブランディッシの蘭(No Orchids for Miss Blandish)』(1939)にまで遡ることができるものなのかもしれない。

 なにせ、チェイスという人はロンドン生まれのイギリス人。アメリカのスラング辞典を買って、六週間で『ミス・ブランディッシの蘭(No Orchids for Miss Blandish)』を書き上げたという。

 ようするに、ここに描かれたアメリカは、いかにもアメリカらしく描かれたアメリカなのだけど、あくまでも想像のアメリカ。なるほど、おそらくはそんなところからに、アルドリッチの映画に漂うおとぎ話の香りの由来があるのかもしれない。
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