あんがすざろっく

英国王のスピーチのあんがすざろっくのレビュー・感想・評価

英国王のスピーチ(2010年製作の映画)
4.2
素晴らしい作品でした。
イギリス・オーストラリア・アメリカの合作。
2011年度の第83回アカデミー賞において、作品賞を始めとして、4部門を受賞しています。



見ている途中で、そう言えば、英国王室の王が乱心し、精神科医の荒療治を受ける話を昔劇場で観たことがあるぞ、と思い出し。
あっ、そうだ、「英国万歳!」だ‼️
本作の中でジョージ3世の乱心にふれる場面がありますが、そのジョージ3世を描いたのが、
「英国万歳!」でした。
これは笑えるに笑えない話で、あんなキツい展開だったらどうしよう、と身構えてしまいましたが、本作はアルバート王子(後のジョージ6世)と言語療法士ライオネル・ローグの長年の友情と苦難の道を描いており、静かな感動を呼び起こすドラマです。


アルバートを演じたのが、コリン・ファース。
抑圧され、矯正されながらも、自らの立場を投げ捨てなかった責任感を、危ういバランスの上に成立させています。

アルバートの心を治療するローグに、ジェフリー・ラッシュ。
僕はこの人にどうしても陰険なイメージを持ってしまっていて(悪魔でイメージですよ、そういうキャラクターが多いからかも知れない😅)、最初ちょっと身構えたのは、そのせいもあるかな。
とんでもない治療が待っていたらどうしよう…と。
王室の王子であることを理解しながらも、患者でもあるアルバートに対等な立場での会話を望み、少しずつアルバートの閉じた心を開いていく流れは、見ているこちらの心まで解きほぐしていきます。
ここで上下関係が出来てしまったら、こんなに正直な告白は聞き出せなかったでしょうね。
ローグの自宅に招かれたエリザベス妃とジョージ6世に、事情を知らないローグの奥さんが驚くシーンがいいですね。そりゃ、どう反応していいか分からないですよ。

アルバートの妻であるエリザベス妃(後のエリザベス女王)に、ヘレナ・ボナム・カーター。
いつも個性的なキャラクターを演じるイメージがありますが、本作の彼女は本当に素晴らしい。
どこまでもアルバートを信じ、支え続けながら、王室の人間としての風格も漂わせます。

一度は即位するも、一般人との結婚(離婚歴のある女性)を望み、その座をアルバートに譲った兄デイヴィッド(エドワード8世)に、ガイ・ピアース。
wikiで調べてみましたが、このデイヴィッドの生涯も実に波瀾万丈です。

首相に就任する前のチャーチルも、実は言語障害があったことが語られ、アルバートの背中を押してくれる存在であったようです。
(言語障害が本当にあったのかどうか定かではありませんが)


ローグに友達の定義を問われたアルバート、彼には友と呼べる人がいなかったのかも知れません。
心の内ではアルバートはローグを親友と認めていたのでしょうね。

アルバートが国王として戴冠式を終えた後、娘達(エリザベスとマーガレット)を抱きしめようとしますが、その際の娘達の気丈さに、やはり王室という世界は、生まれながらにして様々な物事を叩き込まれているのだろうな、と複雑な思いを抱きました。

吃音であることにコンプレックスを抱き、それでも英国の行く末を憂い、思い悩み続けていたアルバート。
吃音を治したいという思いは、これからもきっと国民の前に出るであろうという覚悟からきてるものなんですよね。

自らの言葉が、多くの国民の耳に届く。
このプレッシャーが如何なるものだったか。
誠実で忍耐強いアルバートだったからこそ、成し得たことだとも思います。

汚い言葉使いやスラング、フ◯ック等も連発されることから、イギリスでの劇場公開時にR15指定(監督の批判によって、大人同伴で鑑賞可能なR12に引下げ)、アメリカではR指定のレーティングを受けているようですが、本作に関しては、大人同伴であっても、子供達にも見せて良かったのではないかと思います。

そういう台詞が何故必要だったのか、その理由を考えるべきだと思うんですよね。
闇雲にレーティング指定ってつけていいものではないんじゃないかな。
自分を抑えつけてきたものから解放されて初めて、アルバートは自らの意志で言葉を喋ったのですからね。

そういった台詞の件を加味しても、本作は人間の気高さを、英国らしい気品と厳かさで描いた名作です。
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