もっちゃん

機動警察パトレイバー2 the Movieのもっちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

4.7

このレビューはネタバレを含みます

これは押井作品、もっと言えばアニメ作品において自信もって最高傑作と言えるような出来である。1と比べると明らかに作風が変わっている(つまり押井ワールド全開である)。

93年という時期に作成されたというのが、まずもって示唆的。その2年後にはオウム地下鉄サリン事件、8年後には9.11同時多発テロが起きる。「テロの世紀」の到来を予言するかのような今作を作り上げた押井監督はやはり抜群の先見の明の持ち主である。

しかも、テロの詳細(ターゲットにされる場所、手順など)があまりにもリアルである。交通網を断つために橋を狙い、それによって社会が混乱に陥りシビリアンコントロールが喪失する。さらにガス(偽物だったが)を用いたバイオテロによってさらなる混乱を誘発する。のちにセオリーとなる、現代社会の弱点を突くようなテロ手段は今作から生まれているのではないか。それらのプロットは本広克行の『踊る~』に受け継がれていく。

今回のテロの首謀者となるのはPKOによって東南アジアに派遣された元自衛隊員の柘植行人であるが、彼の最大の目的は「戦争の演出」にある。東南アジアで上司の命令を全うした挙句に部下を失った彼は強いショックを受ける。しかし、現代日本社会は依然戦争を行ったこと、まだ世界で戦争が起こっていることを忘れてしまっており、「不正義の平和」の中を生きている。

彼は戦争の末に何かを求めているわけではなく、「戦争を起こすこと」そのものに目的を見出し、「平和」という傘に隠れた本質を浮き彫りにしたかったのである。そのため米軍や警察、自衛隊のもろさ、頼りなさをことごとく露呈させる。柘植は押井監督自身か。戦後生まれで全共闘世代の押井監督が戦後日本の功罪と未来の日本への問題提起を投げかけたのだろう。

作中何度も登場する「鳥」たちは何を表すのか。押井監督曰く、鳥は「再生」の象徴であるという。鳥が登場するシーンは多くあるが、そう考えてみると中々興味深い。例えば、自衛隊による戒厳体制下をサイレントで演出するシーン(このシーンはパト1、2合わせても一、二を争うぐらい好き)で鳥は登場する。これは今までの平和な日本が壊れ、新しい日本が生まれることのメタファーなのか。そうだとすれば、新しい日本とは何か。それは日本だけに限らず、従来の戦争に代わり「テロ」が世の中を席巻する世界である。

ラストで柘植はこんなセリフを吐く。「もう少しこの街の未来を見ていたかったのかもしれんな」この街(世界)の未来とは何か、果たして未来があるのだろうか。その問いは今もってなお回答は得られないだろう。そんな新しい不確実な世紀を予言した今作、まさしく傑作である。