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機動警察パトレイバー2 the Movieのsmithmouseのレビュー・感想・評価

4.7
サラエボや盧溝橋と同じく一発の号砲から始まるが何と戦い、何が勝利なのかはわから無い。
存在を忘れる程の幽かすぎる平和に挑まれた不可視の"静戦"。

「戦場からと遠のくと、楽観主義が現実に取って代わる。そして最高意思決定の場では、現実なるものはしばしば存在しない」。

押井監督の体制側と革命側の両方の細い描写とシュミレーションを見ているかのように流れていくストーリーからくるリアリズムには息を呑む。

OVA版のパトレイバーには「二課のいちばん長い日」というストーリーがある。
一発のミサイル、"詰み"寸前の空気を誰よりも実感するカミソリ後藤、それを理解しない警察上層部、南雲が直面する"現実"。
そして何よりこの2つの傑作に共通するのは日本に突きつけられた"クーデター的状況"。
「二課のいちばん長い日」で首謀者甲斐が吐いた捨て台詞「生きてりゃもう一度位やれるさ」そのもう一度というのはこれではないか?
繰り返されたテーマの源と思える"日本のアンバランスさ"が戦後70年経った今でも現実のものである以上、この映画は一向に古びない。

後藤が警察庁幹部連に放った強い台詞は前線と後方の物理的かつ心理的距離以外にも目に見える現実とその裏で進行する現実との"隔たり"も言い表しているようで不気味。

中学生の時視聴し、全身が痺れる様な衝撃を受け、パトレイバーが好きになった切欠の本作。
いつ見ても舞台の寒々とした東京の空気が伝わって来てしまう。

今のところ2017年2月現在の日本に生きている。
が、状況はまるで進歩していない。
日誌から滲み出る南スーダンでのPKO最前線に派遣された自衛隊員の方々の深刻な状況と爆(冷)笑ものの言葉遊びと重箱の隅のつつき合いに耽る後方の隔絶を見ると、この映画の持つテーマはあと50年程は古びないだろうと思う
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