サマセット7

最強のふたりのサマセット7のレビュー・感想・評価

最強のふたり(2011年製作の映画)
3.8
2011年のフランス映画。
公営団地で暮らす移民出身のアフリカ系フランス人ドリスは、失業手当の条件をクリアするため、不採用になるつもりで就職活動をする。
ある日彼が訪れたのは、脊髄損傷により首から下が不随の障害をもつ富豪フィリップの介護の仕事の採用面接であった。
希望者多数の中、フィリップと秘書のマガリーに、ユーモアを交えて不採用にしてくれるように頼むドリスだったが、結果は思わぬものだった…。

フランスを中心に世界的にヒットした作品。
ジャンルとしては、コメディタッチのヒューマンドラマという感じ。
ストーリーは、健康だが貧困層のアフリカ系フランス人と、大富豪だが重い障害をもつ白人フランス人とが、互いの違いを乗り越えて固い友情を築く、というもの。

いきなり、迫力あるオープニングから始まり、びっくりさせられる。
このオープニングにはこの映画の魅力が詰まっている。

今作の魅力は、異文化交流コメディとしての面白さと、2人の何もかも異なる人間が打ち解けあっていくドラマ性にある。

豪邸、自動車、オペラ、絵画、クラシック音楽といった富裕層の文化をドリスがコテンパンに茶化すあたりは大変面白い。
ドリスはタブーをものともしない人物で、ブラックな障害者ジョークや政治ジョークなど、一般的に「触れてはならない」言葉が次から次と繰り出される。
ドリスの可愛げもあり、その言葉に驚くほど毒気はない。
心を閉ざし気味だったフィリップが、苦笑いから寛容にも爆笑に転じるのと同様、観客側も、無神経!という気持ちから、やがてタブー視して触れないことこそが偏見では?という感覚へと、自然とシフトさせられる。

今作では2人が、相手の文化をやがて受け入れるシーンを積み重ねることで、2人の絆の深まりが表現される。
出色は中盤の誕生会パーティーの一連の音楽シーン。ドリスのダンスや客の反応はいちいち楽しく、フィリップの表情には心動かされる。
これまた中盤のパラグライダーのシーンも、風景がパッと開けて、2人の関係とシンクロし実に爽快である。
同じく広い風景が2人の心情を表すシーンは終盤にも見られる。
その他前述のオープニングや、面接のシーンで靴だけ映してドリスの浮いた感じを表現するシーンなど、演出はいちいち気が利いている。

今作のテーマは、人間が他者との違いを乗り越え、絆を築くために必要なことは何か、ということかと思う。
相手を尊重して同じ目線に立つこと。
知識だけで知った気にならず、触れて、話して、同じ体験を共有すること。
現実から逃げず、直視すること。
寛容に、まずは相手を受け入れること。
自分を開示し、相手の話に耳を傾けること。
そして、最初から諦めず、一歩を踏み出すこと。
今作は人間関係の普遍的な教訓に満ちている。
ラストシーンもこのテーマに沿ってみると、趣が深い。

今作のキャラクターは、障害者、貧困、格差、人種差別と、社会問題の宝庫である。
今作ではあえてこれらの社会問題を悲壮に描くことはせず、コミカルにネタにするという調整がされていて、大変見やすい。
とはいえ、ドリスの家庭事情、物のように荷台に積まれていたフィリップ、ブラックなジョークの数々など、端々に社会批評性が見て取れる。

よく出来た社会派コメディの佳作。
大きな感動!とか、号泣!とかいう作品ではないが、しみじみといい話だなあ、となった。