サマセット7

キングスマンのサマセット7のレビュー・感想・評価

キングスマン(2015年製作の映画)
4.5
監督は「キックアス」「X-MENファーストジェネレーション」のマシュー・ヴォーン。
主演は「シングルマン」「英国王のスピーチ」のコリン・ファース。

[あらすじ]
極秘の諜報機関キングスマンの諜報員"ガラハッド"ことハリー・ハット(コリン・ファース)は、任務の中で亡くなった男の幼い息子エグジーに「困った時に連絡しろ」と電話番号の刻まれたバッジと合言葉を託す。
17年後、成長したエグジー(タロン・エガートン)は、トラブルに巻き込まれてバッジの電話番号に連絡する。
するとハリーが現れ、彼を救い「キングスマンになる気があるか」と勧誘する…。
一方、世界的大富豪のヴァレンタイン(サミュエルLジャクソン)は、地球環境を憂うあまり、恐るべき陰謀を企て、その陰謀はキングスマンの知るところになるが…。

[情報]
マーク・ミラーとデイヴ・ギボンズによるコミックを原作とする、キングスマンシリーズの第1作目。
原作者マーク・ミラーと監督のマシュー・ヴォーンにより、流行のシリアスなスパイ映画ではなく、初期007のような荒唐無稽で楽しいスパイ映画を作る、というコンセプトで企画が立ち上がった。

マシュー・ヴォーン監督は、今作同様マーク・ミラーのコミックを原作とする「キック・アス」において、過剰なバイオレンスとブラック・ユーモアに満ちた作風でスーパーヒーローものの新機軸を打ち出した。
その後X-MENファーストジェネレーションの監督に抜擢されてヒットを飛ばし、今作で再びマーク・ミラーと組むことになった。
今作においても、過剰なバイオレンスとブラック・ユーモア、という作風は維持されている。

今作のジャンルは、スパイもの、アクション、コメディだが、過剰なバイオレンスシーンや唐突な下ネタを含み、レーティングはR15となっている。
お子様と見るとか、親と見るのに適した映画とは言えないかもしれない。
気まずい思いをする前に、慎重に考えた方がよい。

今作では、007シリーズを始めとする、過去のスパイ映画へのオマージュや言及が頻出する。

撮影は英国各地で行われた。
キングスマンの本拠地となる同名のスーツの仕立て屋のシーンは、高級紳士服店が並び「背広」の語源となったことで知られるロンドンのサヴィル・ロウで撮影されている。

今作は8100万ドルの製作費で作られ、4億1000万ドルを超える大ヒットとなった。
今作は一般観客中心に広く支持されている。
10年代のアクション映画の特集などで、しばしば言及される作品である。

[見どころ]
スタイリッシュ!不謹慎!バイオレンス!
スパイ映画のオマージュ祭り!!
ハイテンポ!
2時間9分があっという間の、ご機嫌スパイアクションムービー!

[感想]
楽しい!!!!

今作はかなりメタな構造を持った作品で、「007のようなスパイ映画」をとことんオマージュし、その極まった荒唐無稽さをコメディとして楽しむ、という点に楽しさの肝がある。
ジャンルは違うが、脱構築型ホラーだった「スクリーム」と似た構造の作品、と言えるかもしれない。

映画に関する言及がやたらと多い。
JB!!
スパイ映画に関するハリーとバレンタインの会話!
プリティーウーマン!!
マティーニの頼み方!!
終盤のシャイニングオマージュ!!
どう考えても映画オタク向け映画だ。

成長したエグジーの前にコリン・ファース演じるハリーが登場するシーンから、待ってました!と感じる。
その後のハリーのド派手なアクションシーン!!
この辺りの、観客が期待する展開を、期待以上に提供する手際は見事だ。

ハリーは常に英国紳士然として、バリッとスーツを着こなすが、その彼がチンピラたちをガンガンぶっ倒す痛快さと快感!!
このあたりは、ジェームズ・ボンドもそこまではやってない!!というレベルのハチャメチャで、とにかく楽しい。

こういう楽しいアクションが、その後もバンバン出てくる。
教会!!!パーティー!!
後半にいくにつれ、アクション/バイオレンスの過剰さは閾値を超えて、もはや笑うしかない域に達する。
このあたり、Amazonドラマの「ザボーイズ」とか、「デッドプール」などが持つ振り切った描写の過剰さを彷彿とさせる。
これらはいずれもアメコミ原作の作品、という共通点がある。
アメコミのトレンド、ということなのかもしれない。

あり得ないレベルに危険なスパイの養成訓練や、秘密道具のギミック、敵の女性殺し屋の両足義足のブレードなどなど、古き良きスパイ映画の持つ、コテコテの荒唐無稽さ!!
もはやギャグだ!!
楽しーい!!!!

今作のキャラクターたちは、潔いほどに記号的に配置されている。
人生や深い内面性を感じさせるキャラクターはほとんどいない。
そのテンプレ感は、明らかに狙ったものだ。
なぜなら、人間性に踏み込むと、シリアスになるから!!!
彼らが作りたい/我々が観たいスパイ映画は、そういう深い話じゃない!!!

思えば、ショーン・コネリーのジェームズ・ボンドにキャラクターの陰影など、まるでなかった。
ヒーローが悪者をぶちのめし、美女とロマンス、それ以外に何が要るっていうんだ?

バカ映画に見えて、今作のキャラクターの配置は、相当に皮肉が効いている。
主人公を取り巻く英国人のキャラクターたちは貧富の差こそあれ、全員が白人。
敵対するアメリカ人のヴィランは、黒人と両足義足の女性だ。
クライマックスの教会のシーンの差別的な南部アメリカ人たちの描写!!
アメリカ人大富豪の企てる、ITインフラを用いた壮大な計画!!
英国人監督マシュー・ヴォーンのアメリカ人に対する強烈な風刺が窺える。
多様性と格差や差別を両方内包する、混沌。
そんなアメリカ人たちが、世界を席巻する情報技術とインフラを握っている、という危うさ。
英国人から見たアメリカ、という視点は、アメリカ映画とはまた違って、面白い。

全体に、これほど痛快な作品はなかなかない。
filmarksでの高い点数も頷ける。
オススメだ!

[テーマ考]
今作の製作上のテーマは、昔の007のような楽しいスパイ映画の復権、にあろう。
しかし、今作は、単に昔のスパイものを復活させただけにとどまらず、現代の意識や感覚に沿って、アップデートさせたり、お約束を笑い飛ばしたりしている。

今作のストーリー上のテーマは、「承継」にあるように読める。
何者でもない若者エグジーは、ハースというメンターと出会い、かつての父も属していた英国的な「伝統」とスパイとしての立場を承継する。
このテーマは、上述の製作上のテーマである、スパイ映画の承継、とも重なっている。

今作には、10年代の問題意識も反映されている。
今作公開の2014年とは、トマ・ピケティが、「21世紀の資本」の英訳版を出版した年だ。
すなわち、資本主義を続けると、貧富の格差は広がり続ける、という法則が、はっきりと明示された年、といえる。
映画においても、格差と分断、というテーマが繰り返し描かれるようになった時期だ。

今作では、貧困層と富裕層、セレブと一般大衆、といった対立構造が頻出する。
主人公とハース。
主人公とスパイ養成訓練のライバルたちの対比は露骨だ。
ヴァレンタインの計画による「選別」。
その賛同者たち。

今作のメッセージは明確だ。
紳士であるために、生まれなんて関係ない。
学ぶことで、紳士になれるのだ。

ヴァレンタインの賛同者たちの末路は象徴的であろう。…少しばかりやり過ぎかもしれないが。

[まとめ]
マシュー・ヴォーン監督の全てが詰め込まれた、やり過ぎスパイ・アクションの快作。

好きなシーンは色々あるが、やはりアクションシーンか。
冒頭のハースのバーでのアクション!
傘!!
教会での最大のアクション!!
差別主義者たちの末路!!!
パルクールを思わせる、エグジーの軽快なアクション!!

中でも、両足ブレード義足の女性殺し屋ガゼルのアクションはどれもカッコよかった!!!
演じたのはソフィア・ブテラ。
新体操のフランス代表チームに入っていたこともある、ダンサーにして女優、とのこと。
なるほど、最終盤のとんでもない動きは、ご本人の新体操の技だったのか。
ギミックとアクションで、印象に残る悪役だった。