つかれぐま

善き人のためのソナタのつかれぐまのレビュー・感想・評価

善き人のためのソナタ(2006年製作の映画)
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冷戦期の東ドイツ。
秘密警察の主人公が、反体制派の劇作家と女優のカップルを盗聴する。彼らの暮らしを聴き続ける内に、冷酷無比と思われた主人公の心が溶けていく。

正しいと信じ続けた「こちら」ではなく「あちら」にこそ生きる意味があるのでは・・と揺らぐ。この変化をほぼ表情だけで演じているのが素晴らしい。

終盤、主人公は作家たちを庇う。
他人の幸せが許せない俗人であれば、彼らも「道連れ」にすることで、相対的な得を得ようとするだろう(主人公の上司はそういう小役人として描かれる)。それをしない主人公は「善き人」なのだ。結果、彼は左遷され、数年後の壁崩壊後も暮らし向きは良くない。だがそこに後悔の念がないことに、観ているこちらも救われる。

壁の崩壊後、全てを知った作家がことの顛末を一冊の本にする。本の冒頭には主人公への謝辞。書店で手に取った主人公は店員に「ギフトですか」と聞かれ、少し満足げに答える。

「これは私の本だ」
(ここに著されていることは)私が作家の為にやったことではない。私自身の正義のためにしたことなのだ。だから後悔はない。

様々な意味を含んだ最後の台詞だが、こんな解釈もあり。