こたつむり

不機嫌な赤いバラのこたつむりのレビュー・感想・評価

不機嫌な赤いバラ(1994年製作の映画)
3.8
♪ 優しい歌 忘れていた 誰かの為に
  小さな火をくべるよな
  愛する喜びに 満ちあふれた歌

とても不器用な作品でした。
物語としては、元大統領夫人を警護するSPのドラマ。派手な演出は少なく、語り過ぎない筆致なので、前半は淡々とした展開が続きます。

しかも、姿勢はとても凛として上品。
楽曲も静かに流れるタイプですし、物語を構成している価値観も誠実さと責任感。殺伐とした現代においては“古典的”と呼ばれてしまう物語です。

でも、それが心地よいのですよ。
どんなに秀でていても“謙虚な気持ち”を抱かない人を尊敬できないように、大切なのは他者を赦す“度量”。真に高貴な作品は価値観を押し付けてこないものなのです。

だから、人と人の繋がりを大切にする作品。
それも言葉で語るのではなく、物語の至るところからジワリと伝わってきます。これが本当の“飾らない優しさ”なんでしょうね。見倣いたいものです。

また、ニコラス・ケイジの個性も違和感なく溶け込んでいたのも見事な限り。正直なところ、ベタベタな甘さでコーティングすると胸焼けするキャラクタですからね。とても絶妙なバランスだったと思います。

ただ、あえて難を言うならば。
元大統領夫人を演じたシャーリー・マクレーンの立ち位置が分かりづらかったですね。日本は政治家の家族を持て囃す国じゃないので、不慣れなのも仕方ない話ですが…(前首相夫人は色々と話題になりましたけどね)。

まあ、そんなわけで。
とても高貴なコメディ。
ガツンと笑えるのではなく、じわじわと良さが伝わってくるタイプなので、身構えずに鑑賞することをオススメします。

最後に余談として。
本作の原題は『Guarding Tess』。
直訳すれば「テス(元大統領夫人)を護衛する」ですかね。だから、邦題は少しズレていると思いますが、配給会社は文学っぽく仕上げたかったんでしょうね。その姿勢は評価したいです。
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