Baad

ハロー・ドーリー!のBaadのレビュー・感想・評価

ハロー・ドーリー!(1969年製作の映画)
5.0
夫を亡くして、結婚仲介業とよろず承りで日々の糧を得るドーリー。飼料問屋を経営する締まり屋の金満家と若い従業員たち。その姪と婚約者の若い画家。金持ちの御婦人相手の帽子屋稼業に嫌気がさし、店を畳んで結婚しようと決意したハイミスと若い助手。日々地道にこつこつと働いてきた登場人物たちが、生活の変化を求めニューヨークの街に繰り出し、歌い踊る。まさに原点に立ったミュージカル。実にアメリカ的な映画だ。『ウォーリー』のみならず、『サタデーナイト・フィーバー』『魔法にかけられて』などの絵作りや構成にもこの映画の影響は明らかに伺われる。

19世紀末のニューヨークとその近郊の小さな町ヤンカーズが舞台の時代物の映画なのに、ジーン・ケリーが監督、ということが納得できる芸術的、というより体育会系とでも形容したいような爽快な群舞のダンスシーンがふんだんに見られるのがうれしい。

リフトを多用した、日々の労働からの開放感に満ちたダイナミックなダンスは、シンプルだがアクロバッティックでとても力強い。ダンスというより、バレーやフィギュアスケートに近い感じさえする。メインの三組の若いカップルは背の高さや踊りの巧さ、演技力などのコンビネーションが絶妙で、繰り返し見ても飽きがこない。

主演はバーブラ・ストライサンドとウォルター・マッソーというどちらかというと70年代的な配役。バーブラは最初は隙あらば入り込むやり手○○さんという感じがして、上品さに欠けるようで、これがルシル・ボールならもっと感情移入できるのに、と最初は思ったりもしたのだが、どうしてどうして、「ハロー・ドーリ-!」をレストランで歌う頃までには、押しの強い外見に隠された亡き夫への深い愛情や働き続けた毎日の寂しさなど上手に見せていって、その歌唱力と表現力のすばらしさに、やはり映画でのこの役の表現力はバーブラならでは、と納得した。

締めくくりのヤンカーズでのシーンのマッソーの表情もよかった。ケチで勤勉で人情家だった郷里の名物男の資産家のじいさんを思い出していささかしんみりとした気分になった。とはいえ、映画の終わり近くにマッソー演じる資産家が達したような境地に達する大人は実は稀であろう。彼の達した境地は今の大人にも大切な心構えでもあるのだが・・・

『ウォーリー』を見た後の物足りなさに押されて見てしまった作品だが、今この年齢でこの映画に出会えて本当によかったと思う。


付記;
数年前、ジーン・ケリーが監督の映画ということで興味を持ち、購入しては見たものの、最初20分ほどで飽きてしまいそのままに。『ウォーリー』を見たのをきっかけに、使われていたフッテージのダンスシーンをチェックする為に見たところ、すっかりはまり込んでしまい、なんどか繰り返し見ることになった。

公開当時は玄人筋の評価は大変高かったものの、観客の反応は今ひとつであまりヒットしなかったということを購入当時の20世紀Foxの宣伝用DVDで知ったが、たしかにある面玄人好みの映画で、若い頃に見ていたらあまり印象に残らなかったような気もする。公開時には技術や音楽部門のアカデミー賞をいくつか受賞している。

不惑をすぎて、それなりに豊かになり、「今時の若いものは・・・」という言葉が思わず口をついて出るようになってしまった・・・ような人にぜひおすすめしたいミュージカルだ。

(晴れ着でダンス 2009/1/29記 一部修正)
Baad

Baad