子供心に寅さんといえば週末のおしまいの象徴で、日曜洋画劇場の次週予告で盛大にあのテーマ曲が流れようものなら、明日の学校の憂鬱に押しつぶされ呼吸は浅く早く浅く早く苦しくなるのだった。そして一度もこのシリーズを見ることなくいい年になってしまった。
仮に、他人に厳しいくせに自分には甘々なことに無自覚な昔の自分が見たら、さんざほたった故郷へぷらっとやってきて波風立てて、やなことがあるとぷいっと何処かへ行ってしまう、無責任な渡世人の寅さんを好きにはなれなかったかもしれない。私自身が随分な馬鹿さ加減を負ってしまってもう引き返せない今だからこそ、その日暮らしでも、いきまいたり、笑ったり、しょぼくれたり山の天気のようにくるくると表情を変えながら精一杯生きるやさしい寅さんをいいなぁと思える気がする。私の好みなんてのもホントいい加減だ。
「ばかだねぇ」というのはおかしさとかなしさと親しみと羨望がないまぜになった寅さんにぴったりな言葉だと思う。
