クロ

デカローグのクロのレビュー・感想・評価

デカローグ(1988年製作の映画)
4.3
聖書の十戒のモチーフを翻案した10のドラマ。人口の9割をカトリックが占めるポーランドに向けて1989-1990年にテレビ放送され視聴率初回50%台、最終回60%台に達したとのこと。世相、宗教観、個人の趣向、日本で暮らす私たちとの隔たりは時を追うほどに拡がるだろう。けれど、それぞれの事情に拘泥し浮かんでは沈む人々を、そこに漂う愛や煩悶の襞を慈しんで見つめ赤裸々に描く監督の視線に、少し背伸びすればきっとまだあわせることができるのではないか、と思う。

第01話:賢く感受性豊かな少年と大学講師で信仰の薄い父親の物語。災難は不意にとらえ私たちから時に全てを奪う。それは神様の思し召しか、偶然の成り行きか、私達はどう向き合うべきなのか。「偶像崇拝の禁止」。
第02話:独り身の老医師と同じ公舎に住む中年女性の出会いで始まる物語。彼女は末期癌で重篤の夫を愛しているが、一方で他の男と不義の子を身篭り混乱している。やがて彼女に戒めともとれる出来事が襲う。「姦淫の禁止」。
第03話:クリスマスの夜、昔の女が昔の男の元を訪れ、今の夫が失踪したと告げて始まる捜索劇。年の瀬、夜の冷たい風がひとの骨身を苛むのは何処の国でも同じ。「偽証の禁止」。「安息日を守る」。
第04話:父娘、二人暮らしの日々。娘は父の引き出しから「死後開封のこと」と記された手紙を見つける。父さんちっとも悪くないむしろいい人なのだけど哀しいかな煩悩との闘いは終始崖っぷち、な半コメディ、「姦淫の禁止」。「父母を敬え」。「偽証の禁止」。
第05話:汚れた社会で行き場を無くし衝動のまま人を殺めた青年を、次は社会が裁き殺める。「汝ら、殺す無かれ」。聖書では人類の始祖の次の世代のカインが早くも殺人に手を染める。被創造物が繰り返す殺し合いの歴史に神様も頭を抱えたろうか。
第06話:覗きが趣味の19歳郵便局員兼牛乳配達員の一方的で屈折した、されど純な恋。覗かれる側の女性は愛欲の生活に疲れていたが彼と出会い生/恋を取り戻す様が微笑ましい。「姦淫の禁止」、「隣人の家を貪ってはならない」
第07話:意に沿わなかった家族の日々の精算の時。母は娘から孫を奪う。娘は子を母から奪う。男たちは母の夫も娘の夫も傍観者。「盗んではならない」。
第08話:40年前の戦況、ナチスの監視下、少女を見捨てた女と見捨てられた少女の再会と和解。過ちは心の隙間にふと生まれ、赦しはどこまでも遠い。「偽証の禁止」。
第09話:不能になった男の悶え。性とは神様が与えた祝福か、素性の悪い煩いの種か。どちらにせよこわれもの、取扱に注意。「姦淫の禁止」。
第10話:放蕩の末死んだ父の思わぬ遺産にさんざ踊らされる兄弟。すってんてんになってはじめてこみ上げる笑い。大団円。10作中で一番後味が良い作品がこれだけ虚脱感漂うのも監督らしさがあっていい。「隣人の家を貪ってはならない」
クロ

クロ