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プレステージのnetfilmsのレビュー・感想・評価

プレステージ(2006年製作の映画)
3.8
 何でも入りそうな黒く大きな帽子、籠の中の鳥、映画は男の独白で始まる。曰く優れた手品は3つの要素で構成されているらしく、最初のパートは確認、2番目は展開、そして3番目は偉業により成し得るという。19世紀末のロンドン。二人の天才マジシャン、華麗なパフォーマンスを得意とする“グレート・ダントン”ことロバート・アンジャー(ヒュー・ジャックマン)と、卓越した想像力を持つ“プロフェッサー”ことアルフレッド・ボーデン(クリスチャン・ベール)は、お互いを尊敬するライバル同士。彼らは情熱のすべてを注いで、イリュージョンの腕を競い合っていた。映画は2人が互いの日記を読み合うことで物語が進む。手品用の四角い水槽の中に落下したアンジャーの苦しむ姿。苦悩するボーデンの表情、彼の姿は裁判所の中にあった。そこから突然、場面は変わり、先ほど死んだはずのアンジャーがコロラドにニコラ・テスラ(デヴィッド・ボウイ)を尋ねる場面に変わる。互いが互いの日記を読み合う度に、『メメント』のように時間はフラッシュ・バックを繰り返す。ある日、アンジャーの愛妻であり助手のジュリア(パイパー・ペラーボ)が、脱出マジックの失敗で死亡してしまう。

 足首の紐を結んだのはアンジャーで、手首の紐を結んだのはボーデンだったが、どういうわけかボーデンは手首をどう縛ったのかを思い出せない。ここでもノーランの映画の主人公がしばしば陥る「記憶障害」が2人を決定的に亀裂させる。クリストファー・プリーストの1995年の小説『奇術師』を原作とする物語は、2人の奇術師のドロドロとした愛憎関係を描いている。アンジャーの妻の事故死の後まもなく、ボーデンはサラ(レベッカ・ホール)と出会い結婚。2人の間には愛娘が生まれた。そしてアンジャーのもとには助手志願の美しい娘オリヴィア(スカーレット・ヨハンソン)が現れる。運命に導かれた2人の男同士の葛藤の中に、1人のファム・ファタールが紛れ込む人物関係は、ノーランお得意のフィルム・ノワールの解釈に他ならない。男たちは互いを出し抜こうと深謀遠慮を図り、銃弾掴みや水槽脱出など様々な過激なマジックを繰り広げる。現実は想像に及ばないというロジックに対し、想像は現実を超えると嘯く両者のロジック構造は、この後繰り広げられる『ダークナイト』のバットマンとジョーカーの二項対立にも連なる。『インソムニア』のウィル・ドーマー(アル・パチーノ)のように垂直に落下した男は、人々を欺くようなあっと驚く奇術をフレーム上にもたらす。片や指を失い、片や足を痛めようが、愛妻を失っても貫かれた狂ったような奇術への思いは、信じられない増殖術を繰り返す。
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