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受取人不明のnetfilmsのレビュー・感想・評価

受取人不明(2001年製作の映画)
4.1
 1970年代韓国、在留米軍基地に守られた辺鄙な村。黒人と韓国人の混血児であるチャングク(ヤン・ドングン)は、犬で生計を立てる商人の下で黙々と働かされていた。彼と母親が住むのは赤い米軍のバスで、辺りに林と田んぼしか見当たらない村では、ひと際目を引いた。朝から黙々と仕事の用意をする裏では、母親がバスの窓からポラロイドカメラで息子の雄姿を撮ろうとし、息子に嫌がられる。母親が撮る写真はいつも、彼女の夫でチャングクの父親の元へと送られた。だが父親に届くはずの手紙はいつも、「address unknown」の文字と共に、受取人不明で戻って来た。

 映画はチャングクと、おもちゃの銃で右目を失明したウノク(パン・ミンジョン)と彼女を秘かに愛するチフム(キム・ヨンミン)とを奇妙なトライアングルで結ぶ。雁字搦めのようなこの村で、3人はそれぞれの問題を克服し、一人前の大人になることを夢想するが、八方塞がりで袋小路なこの村のヘドロに文字通り、足元を搦め捕られる。人間の2つ在る左右の目は、左右対称で現実を正しく見るために存在する。最初、ウノクの目が片方ない時にその目の代わりを演じたのは紛れもなく「犬」だったし、彼女とバター・ドッグの痴態を目撃した幼馴染のチフムだったはずだ。しかし女が米国兵に恋した瞬間(片目を再建する可能性を探った瞬間とも同義語だが)、彼らの役割は無効化する。LSDの白い錠剤でラリった女の手には、確かに犬が横になりながらしっかりと抱かれていたのに。

 自身を去勢出来ない男たちにとって、銃や弓やナイフや絞首刑の針金を持つことは自殺行為でしかない。男は自分自身を去勢出来ない代わりに、女の乳房を切り落とす。しかし女の地獄を這うような呻き声を聴いて、男は平常心ではいられなくなる。半狂乱の地獄絵図と化した今作にはっきりとした救いはない。然しながらここには三者三様の心模様と、それを見守らんとした親たちの叫びがこだまする。匍匐前進の途中、起き上がってしまった男は「そんなに戦争が好きなのか?」と叫ぶが、権力と組織の論理に売国奴と糾弾され、虫けらのように扱われる。そんな彼を祖国の英雄は俺が殺したと自慢して憚らない。ノミ以下の虚勢は所詮は虚勢でしかないし、命を失ってしまってから届く便りには何の意味も価値もないのだ。
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