earlgrey

時計じかけのオレンジのearlgreyのレビュー・感想・評価

時計じかけのオレンジ(1971年製作の映画)
3.5
 人は愚かに生きる自由がある。それが他者の犠牲の上に成り立つものでも。当然、被害者は訴え、国は拘束して罰することになるが、やってしまった結果に後手で対応するのが限界なのだ。悲しいかな、犯すことそのものは誰にも止められない。
 その自由を奪うことは相手が最悪の犯罪者であっても、人間が立ち入れる最後の一線を越えているのだろう。

 悪友たちが就職年齢に達したからといって警察官という職をあっさり選べてしまうところに、“必要な定員や要件が満たされればそれでよい”という、本質をないがしろにするこの世界の特徴が見えてくる。
 そういうとこだよ。だから、極悪人は暴力を生理的に受け付けなくなる暗示を施せばよくて、その結果問題が生じたら「治せばいいんでしょ?」ってなる。

 それにしても更生プログラムで洗脳された彼が「治った」のは、何が転換点だったんだろう。やはり他者に向いていた暴力が封じられ、ため込んだ負荷が爆発し、ついには自分を害そうとしたことか。
 自殺という形で暴力被害を身をもって体験することで、悪の方向に一皮剥けたというか、一周したのかもしれない。
 自分への暴力(自殺)には嫌悪感を与えていなかった政府は片手落ちとも言えるし、すんでのところで人道的だったとも言える。
 自殺の選択肢さえ奪っていたら(彼にとって)本当に地獄だ。もっともそれによって怪物が呼び戻されることになるのだが。

 覚醒剤入りミルクバー、アレックスの自宅、作家の邸宅、デザインセンスに目を奪われる。悪趣味なものを悪趣味なまま魅力的に描いているのが素晴らしい。
 ストーリーもそうだが、公序良俗から著しくはずれたものでも自分のものとして臆せず表現できるのは、創作者の中でも稀有な存在だと思う。この世界に住む他の人々や、いろんな日常をもっと見たい。
 暴力行為をはたらいた後、スポーツカーで逃走する四人組の姿は、彼らがやったことの甚大さを差し置いて、ああ青春だなと惚れ惚れさせられた。
earlgrey

earlgrey