中野シネマ

死闘の伝説の中野シネマのレビュー・感想・評価

死闘の伝説(1963年製作の映画)
3.9
「この物語は、この平和な風景の中に起こった悪夢の記録である。」

先の大戦にて北海道に疎開した者とその地の住民たち。絶望的な戦況、抑圧され続けたうっぷんを晴らすかのように、人間性を喪失し、暴徒と化し、ヒステリックに同じ村に住む者同士が殺しあう。

昨日までは毎日生活をしていた者同士。その者たちは、なぜ殺しあっているのかをおそらく知らない。ただ、平静を保つことが容易ではない状況の中、ひとつの情報から善と悪を判断する。もはや判断すらできず、刷り込みと集団意識だけで動く。そして、それが人殺しまでしてしまう。村の権力者に逆らうことはできないのに、人は殺せてしまう。戦争の恐ろしさは人間の恐ろしさ。

カラーの美しい自然豊かな映像から始まり淡々としたナレーションで語られ、モノクロへと移ってゆく衝撃的なオープニング。不気味に奏でられるアイヌのムックリ。
「国民の全てが悪夢から覚めたとき、この悲劇を知る人々もまた、その魂に黙して語ろうとはしなかった。」平和とは何か。残酷な事実を葬り去ることで得られるものなのか、事実を伝えることで得られるものなのか。
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