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明日へのチケット(2005年製作の映画)
3.9
 ローマへと向かう列車の中で繰り広げられる様々な群像劇をエルマンノ・オルミ 、アッバス・キアロスタミ 、ケン・ローチの3人がオムニバス形式で綴った作品。キアロスタミはこのうち第二部を担当している。ローマへと向かう特急列車がある駅で停まり、アルバニア人一家と、恰幅の良い女性と青年が列車へと乗り込む。アルバニア人一家はこの後のケン・ローチの第三部に登場するので割愛するがキアロスタミは主に恰幅の良い女性と青年の行動にフォーカスしていく。列車の中の通路は狭く、恰幅の良さからすれ違うことの出来ない女性は、列車の中を右往左往しながら、ようやく自分たちの席を見つけたようですぐに着席する。青い目の青年フィッリッポ(フィリッポ・トロジャーノ)はここ1号車だけどと彼女の判断に疑問の声を上げるが、彼女はそんなフィリッポの意見を一切聞き入れようとしない。すると後ろから胸元の開いたスーツを来たセクシーな女性が現れ、斜め後ろの席に座る。フィリッポが彼女のセクシーな胸元をチラチラ見ていると、その視線に気付いたのか、恰幅の良い女性が席を変わるよう命令する。

 キアロスタミの脚本は、まるでジグザグ道を遠回りするかのように、様々な迂回を繰り返しながらじわじわとクライマックスへと向かう。よって次に起きる展開を予測するのはどんなに映画をたくさん観ていようが極めて困難を極める。ただのエキストラにしか見えない登場人物たちが、主人公の行動になんらかの因果関係を与え、真にユーモラスな世界を形成する。トイレに立ったフィリッポはそこで見たことのある少女を見つける。恰幅の良い女性のところに戻ったカメラはトイレから出てきた男が何とフィリッポの席に座り、携帯電話で電話をする恰幅の良い女性を睨みつけている様子を映し出す。男は彼女の使っている電話が自分のものだと信じており、口論となる。やがて車掌が仲裁に入り、男に聞いた番号に電話をかけると、すぐ後ろの席で携帯が鳴る。結局、座席も携帯電話も男の勘違いであり、男は後ろの席に気まずそうに座り大人しくなる。二転三転する物語は果たしてどこに向かっているのか骨子すら見えない。前に進んでいるのかそれとも後退しているのか?まったくわからないままにキアロスタミのトリックの観客を誘う。クライマックスに僅かに1ショットのみ列車のつなぎ目からむき出しの線路を覗く場面があるが、ある意味完璧な室内劇に徹しながら人間同士をユーモラスに動かす。
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