しゃにむ

ミッドナイト・イン・パリのしゃにむのレビュー・感想・評価

ミッドナイト・イン・パリ(2011年製作の映画)
4.9
懐古的な生き方の決着。

とても感銘を受けたお気に入りの作品です。憑かれたように映画に文学に熱中しているとたまに、いや、しょっちゅう、あの頃は良かったなーと盲目的に恋い焦がれることがあります。黄金時代信仰とでも呼びましょうか。不可解で不条理で、騒がしくて、微妙にややこしい毎日に多少なり不満を覚えるから、無性に理想の過去の妄想にすがりたくなります。妄想は理想に、理想は信仰に。時代にはぐれたような、非常に心細い気持ちには拠り所が欲しいなぁなんて。

主人公もまた1920年代のパリに想いを馳せる夢想家です。現代が退屈で空虚に見えてしまいます。すっかり過去の虜。過去の面影を残す夜のパリをつらつらと散歩していると、レトロな車が。誘われるまま車に乗ると、夢にまで見た黄金時代のパリが目の前に。ロストジェネレーション、享楽的で雅なパリの雰囲気に生きた心地を覚えます。ヘミングウェイ、フィッツジェラルド、ピカソ、ダリ…自分を過去に虜にした張本人達との数奇な出会い。魔法のような一夜。

黄金時代だと信じていた時代の住人は意外にもひと昔前の方が自分には理想的だと語ります。黄金時代にも時代の迷子がいました。彼らにとって、黄金時代も現代にしか違いありません。勘違いしてはいけません。彼らもまた自分と同じように過去の虜です。さらにひと昔前に行っても、その黄金時代の住人はさらにひと昔前に恋い焦がれています。

過去もまた現代です。過去は過去ではありません。過去に住んでも過去もいずれ現在になります。これって堂々めぐりです。人間は時間の概念から解放されません。自分に時代を選ぶ権利はないようです。結局時代が自分を選びます。なんだか救われないなぁ。

まぁでも今もやがて過去になります。もしかしたら未来の人が恋い焦がれるような魅力的な過去かもしれない。反対にサイテーな過去と呼ばれるかもしれない。そう思うと今を生きるのも楽しくなるような気がします。どんな時代と思われるか、自分が左右する権利くらいあるかもしれなません。出来るものなら、いい過去をつくりたいものです。後世の人々がうらやむような過去を。
しゃにむ

しゃにむ