イホウジン

サイコのイホウジンのレビュー・感想・評価

サイコ(1960年製作の映画)
3.6
初心者向け(?)スリラー映画

ビビりなこともあり普段からホラー映画とスリラー映画を避けてきた(シックスセンスでさえも少し嫌だった)私でも、一度もビクッとすることなく安心して鑑賞できた。この理由は2つある。
まず、そもそも観客を驚かせることが映画の目的になっていないように思われるからだ。後述するシャワーの場面は恐怖を煽る演出をしているが、それ以外の場面においては急に人やお化けが飛び出してくる訳でもないし、現代の視点から見ると展開も平易で簡単にフラグが立って簡単に回収されることの連続で、その後の展開を読むことが容易だった。スリラー映画やホラー映画の特徴の1つであろう「展開の予測不可能性」が今作には織り込まれていないのである。しかし今作はそれでも観客にぼんやりとした不安感を与えてくるものである。それは、モーテルの犯人の「感情の予測不可能性」が強調されているということだ。映画のタイトルに相応しい、どれが本当の感情なのか表面からはつかみ取れない犯人の言動は紛れもなく今作の最大の魅力の一つであろう。
そしてもう一つ今作がさほど怖くない理由は、シャワーシーンが後世のあらゆるメディアで引用されてしまって、元ネタなのにデジャブになってしまったからだろう。それだけ戦後の映画界に大きな影響を及ぼしたシーンとして大いに評価されるべきだが、あまりにも有名になりすぎて今更あの場面に特別な感情を得られなくなってしまった。とはいえセリフすらほぼないのに映像と音と音楽だけであそこまで世界観を表現できたのは見事である。

全体を俯瞰してみると、色々疑問点は出てくる。特にストーリーのまとまりのなさは何かと察してしまった。結局全てはあのシャワーシーンにあって、もはやそれ以外の要素はそのためのただの肉付けである。こう考えると、序盤の現金強奪とストーリーの本流との関係のなさも、終盤の急に映画を終わらせようとする感じのモヤモヤも説明がつく。

個人的にはカラー技術が進みつつあった1960年に、あえてモノクロ映画を作ったということ自体の好感度が高い。あの世界観は確かにカラーだと成立しそうにないものだ。
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