むさじー

カンバセーション…盗聴…のむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

カンバセーション…盗聴…(1973年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

<孤独な盗聴のプロが陥った不安と妄想の地獄>

ハリーにとっての盗聴や観察は仕事であり、社会や他人との唯一のコミュニケーション手段で、あくまで一方通行であるが故に彼の世界を脅かすことはなかった。
しかし、仕事上の話で自分とは無関係と思っても、「殺されるかも知れない」男女の登場で、気になって彼らの密会場所に行ってしまう。
いわば盗聴・観察者の立場から、他人の世界に踏み込んだ途端、孤絶した自分の世界にも他人が入り込んでいたというオチになっている。
プライベートまで盗聴に用心する、そんな盗聴のエキスパートが、“殺人の匂いがする”という勘から、一線を越えて対象世界に介入してしまい、逆に盗聴されているという不安から疑心暗鬼にかられ、自己崩壊していく様が描かれる。
隣室の殺人の話は夢のようであり、あるいは「殺されるかも知れない」二人のことも妄想かも知れないが、盗聴を恐れるあまり自室を破壊してしまうような不安はもはや病理に近く、精神を病んでいくのが見える。
描かれるのは盗聴を生業とする男の孤独だが、孤独な都市生活での他人への不干渉、自己保身から生まれる閉塞感、それらがいわれなき不安や妄想を生むとしたら、思いがけない落とし穴にはまったり、精神的な病理を生む危険が待っているような気はする。
この辺について、主人公の独白はなく、あえて説明もせず、解釈の多様性を許している。
ミステリーの種明かしをしないことで、観客にも主人公と同様の不安や恐怖をもたらす、サイコスリラーの醍醐味が味わえる傑作である。
むさじー

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