むさじー

酔いどれ天使のむさじーのレビュー・感想・評価

酔いどれ天使(1948年製作の映画)
4.0
<戦後復興期の混沌と闇市の人情>

町医者の眞田は、闇市を仕切るヤクザの松永が負ったケガを手当てしたことから彼が結核を患っていることを知る。何かと世話を焼くが血気盛んな松永は聞く耳を持たない。更に出所してきた兄貴分の岡田との縄張りや情婦を巡る諍いから松永は命を縮めていくのだった。
沼地から噴き出すメタンガス、蔓延する結核や伝染病、酒の代わりに消毒用アルコールの水割り。終戦から3年経ち、荒廃し混沌とした中で生きる人々のエネルギッシュな雰囲気が見事に描かれている。アル中の町医者と結核を患った若いヤクザの交流を軸に、取り巻きのキャラの立て方、絡ませ方が明快で、これぞ娯楽映画であり、ストーリーはシンプルなものだがあの時代の“今”をリアルに描いている。
そしてエンディングに見せる希望の光。戦後復興期を生きた人たちは大いに勇気づけられたであろうし、当時の娯楽映画が果たした役割が偲ばれる。
また、本作が黒澤×志村×三船の第1作で、ベテラン志村の向こうを張った若造・三船の必死の役作りが新鮮だ。こけた頬にギラギラした眼光で、映画の進行に従ってどんどんやせ細っていく。演技はぎこちないが、野獣性とナイーブさを併せ持った独特の存在感が輝いていた。
特に印象に残るのは、結核の松永が死の恐怖におののく夢のシーン。あの当時、心象世界をこれほどシュールに描いていたことに驚く。そして本作で培ったものが『野良犬』『生きる』『赤ひげ』へと受け継がれ重みを増していく、黒澤映画の原点が見える。
むさじー

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