nt708

流れるのnt708のネタバレレビュー・内容・結末

流れる(1956年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

女性専用の職安ができるほどに女性の社会進出が加速した時代。かつては生きるために花柳界にいた女性たちも時代遅れとなっている。そのような時流に飲まれそうになりながらも、奮闘する女性たちの姿を成瀬は力強く描いている。そうなのだ。今まで自分では気が付かなかったが、私が成瀬の映画を好きなのは、ひとつに女性たちが物語の中心にあることなのである。時代感からして男性が物語の、あるいは人生の主役になりそうなところを女性にも男性に劣らない波乱万丈の人生があることに光を当てたセンスに私は惹かれたのだ。それに彼のカメラワークは実に軽快で、観ていて気持ちが良い。カメラの位置も常に登場人物たちと同じ目線であたかも自分が物語の一部になったような感覚を観客に与えるところも成瀬のユニークさだろう。

それにしても本作はタイトルが良い。『流れる』。万物は流転する、、ではないが世の中は常に移ろいゆくものであり、人間はそれに逆らうことができない。それでも何とか踏ん張ろうとする行為に物語が生まれるからこそ、人生は面白く、映画にもなる。本作の最初と最後が同じ川の流れを写したショットになっていたのは、この時間の流れと人間との関係が不変であり、今後も繰り返されることを予感しているのだろう。ほとんどのショットがテンポよく構成されている中で急にこんな詩的かつ哲学的なショットを入れてくるんだから、油断も隙もあったもんじゃない。どうしたらこんな映画を撮れるのか。尊敬する映画監督のひとりとしてもっともっと研究しなければならない。
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