よねっきー

ダンサー・イン・ザ・ダークのよねっきーのレビュー・感想・評価

4.2
揺れるカメラワークの向こう側に、絶望と音楽の温度を感じる。皮肉な物語を目の当たりにして、「やさしくなりたい」なんて思えなくなってくる。

映画を観て「これ作ったやつ絶対性格悪いわ」と思うことは往々にしてあるけど、これはレベル違う。性格悪いとかじゃない。たぶん監督は肌が真っ赤だしツノとキバが生えてるな、と思う。悪魔が撮ってるとしか思えない。

個人的に、ラース・フォン・トリアーの猟奇的なシチュエーション造りは結構信頼してる。ひとりの狂人のちょっとした言動で、生活のなかに急に野生が忍び込んでくる感覚。突然、物語が「食うか食われるか」にシフトしてしまう感じ。恐ろしい。『インディアン・ランナー』では甲斐甲斐しい警察官を演じていたデヴィッド・モースが、その時の優しい雰囲気を残したままイカれちゃってたのがすげー良かった。

ただ、そういうシチュエーション造りが上手なぶん、主人公がどんどん悲惨な目に合うっていう展開がちょっと弱くなっちゃってたような。不謹慎なのは分かってるんだけど、セルマが死刑になるところで笑っちゃうんだよな。さっきあんな繊細に「最悪のシチュエーション」を見せてくれたのに、急に展開雑すぎるだろ。

ミュージカル部分は単純に下手くそっていう印象…。別に歌が下手とか音楽が下手とかじゃなくて、ただミュージカルとしての見せ方ができてないと思う。たぶんラースは、ときどきいる「ミュージカルが理解できないタイプ」の人。「なんで突然歌うの?」と思っちゃうタイプの人。絶対ミュージカル好きじゃない。一歩引いた視点から「狂ったもの」としてミュージカルを描いてるって感じだ。映画の構成としてはそれでも良いような気もするが、単純に集中が削がれるし主人公の内面の表現として不十分なんじゃないか。

ラースの映画は良くも悪くも実験的だ。いつもちょっとだけ失敗してて、ちょっとだけ成功してる。
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