遠い昔…はるか彼方の銀河系で…
現在…天の川銀河の地球という惑星に暮らす我々に1ミリも関係ないお話になんでみんなこんなに熱中するのでしょうか?
それはスペースオペラという夢物語の中にリアルな我々の人生における色んなメタファーがつまっているからでしょう。
愛や憎しみ…戦争と平和は全宇宙共通でしょうし、フォースという力や暗黒面という概念はいったい何を意味しているのでしょうか?…
おれは特にこの「暗黒面」という概念に惹かれます…ダース・ベイダーを生んだこの力…
これはおれたちの周りにも存在していて、誰でもひとつ間違うと「ダークサイドに堕ちる」ものではないでしょうか?
ある時期…おれはけっこうヤバい状態にあって…それも「今思えば」であって当時そんな自覚はない…
何をやってもうまくいかず…不運なことも重なっていた…
そんな時…人は少しでも楽な方に逃げたくなる…
何かしらの犯罪を犯したり自ら命を絶ったり…そこまでいかなくても周囲の人を傷つけたり…
おれはそんな「ダークサイド」のすぐ淵にいた…と今でこそ思う…
あのとき…何でもないことがおれを救ったのだ…
イライラしながら車を走らせていた…
山あいの道は昼間なのに薄暗く霧雨みたいな雨が降りだした…
最初はただ路肩に車が停まってるだけとと思った…しかし脇を通りすぎるときその車がもはや動かない朽ち果てた車なのが見てとれた…
行き過ぎたおれは少し走ってから車をUターンさせてその車のところまで戻った…
フランスの古い車で中には土が入り込み植物が生い茂っている…ハゲかけた塗装は何度も塗り重ねたのだろう…ひび割れて端の方はめくれあがっていた…
その朽ち果てた車の横に入り込む小道があり、曲がり角に小さな看板が出ていて店の名前が描いてあった…小道をのぞきこむと「open」と書かれたやはり小さな木の板と緑に埋もれるようにたっている建物が見えた…
カフェのようだった…
小道から車を入れると建物の前の空き地に車を停めた…
カフェの前には大きな木があってその根本に犬小屋があり大きな黒い犬が繋がれていた。彼(彼女?)は彫像のように微動だにせずおれも凍りついたように対峙した…
「なんだよ…」
尻尾がまったく振られていないのを見て「これは手を出すと噛まれるな」
そう思ったおれは早々に店に入った…
店の中は山小屋風で中年の女性が一人でやってるみたいだった…
「こんなところにこんなお店があるなんて知りませんでした」
「よくぞ…見つけてくださいました!」
ちょっと驚くくらいの笑顔で彼女はそう言うと…
「どうぞ…お好きなところへおかけください」
客はおれだけで外の森が見える窓際の席に座ってコーヒーを頼んだ。
しばらく霧雨に濡れる森を眺めてからおれはバッグから何日も前から止まっていた読みかけの本を取り出して読み始めた…
2~3時間もいただろうか…本を読む合間にコーヒーを注ぎに来てくれた彼女と少し話しをした…前の朽ち果てた車のことや黒い犬のことを…
「彼女はピコ…絶対に噛んだりしませんよ…甘えん坊です」
…と彼女は笑った…
いつの間にか雨はあがって薄い陽射しが戻ってきたようだ…
本を閉じておれはゆっくりと息を吐いた…明らかに何かが変わった感じがした…
お金を払うとき彼女はやっぱり柔らかい笑顔を浮かべたまま…
「いつでもまた…本を読みにいらしてください」
「ありがとうございます…助かりました」
「え?」
「いや、何でもないです…また来ます!」
表に出るとまた大きな黒い犬と睨み合う形になった…
ところが驚いたことに今度は彼女の尻尾は音がするくらいブンブンと振られていた…
「ピコ!」
おれが手を出すとじゃれついてきてお腹を見せてひっくり返った。
「ありがとうな…ピコ」
こうしておれは救われたのだ…
危ないところでダークサイドに墜ちずにすんだのだ…と思っている…
今でも時々疲れると…本を読みにこのカフェに行きます。
ピコは飛び付いてくるし、彼女は変わらぬ笑顔と美味しいコーヒーで迎えてくれます。
時々来るぶっきらぼうな本好きのオヤジだと思ってるでしょうが…貴女はおれを暗黒面の誘惑から救ってくれたレイア姫なのです。
フォースが共にあらんことを