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家庭のakrutmのレビュー・感想・評価

家庭(1970年製作の映画)
4.4
めでたく夫婦となったアントワーヌとクリスティーヌの関係性が、出産、不倫、別居などの出来事を通じて揺れ動く様子を描いた、「ドワネルもの」4作目にあたるフランソワ・トリュフォー監督のドラマ映画。

白い花を自由に染色するという不思議な仕事をしているアントワーヌと子供たちにヴァイオリンを教えているクリスティーヌの二人が暮らすアパートの住民たちとのほのぼのとしたやり取りから始まる本作では、前作の『夜霧の恋人たち』にも増して、気負わずに微笑ましく二人を描いていて、シリーズ中で最も娯楽性に富んでいる作品と言える。クリスティーヌがとても素敵な(眼鏡姿もかわいい)だけに、途中はかわいそう。二人の関係が悪化したときに、自伝的小説を執筆中のアントワーヌに向かってクリスティーヌが、(親と不仲の少年時代という)現実が不幸だからと言ってその仕返しに小説を書くなんて芸術ではない、と言うシーンがある。まさにトリュフォー自身に投げかけられた言葉のようであり、トリュフォーとクロード・ジャドの関係を考えると彼女自身が言っているとも解釈できるようであり、トリュフォー自身のそれまでの苦悩を表現しているとともに、本作の撮影時にはある意味で吹っ切れたからこその台詞とも言えるだろう。

アントワーヌの不倫の相手として、海外の人々が想像する間違った日本(人)を体現したようなキャラの日本人女性が登場するのも、本作品の特徴と言える。日本人女性をコミュニケーションが取れない異星人のように描いている点は、一部で物議を醸したようであるが、いわゆる不倫ものではなくラブコメ調にしたかったからであろう。この日本人女性を演じたのは、松本弘子というパリコレで活躍した元ファッションモデル。日本でモデルをしていたときに、来日していたピエール・カルダンに見出されてパリに渡り、トップモデルとして活躍した。アントワーヌが何度も電話をかけるレストランの電話ボックスがお洒落。

映画へのオマージュが随所に見られるのも、本作の見どころである。これもトリュフォーに心の余裕が出来た証拠だろう。
・ジャック・タチ作品の有名キャラであるユロ氏が、地下鉄のプラットフォームのシーンで登場する。(ジャック・タチ自身ではなくて、タチ作品でも代役をしていた俳優である。)
・アントワーヌが子供が生まれたことを電話でジャン・ユスターシュに知らせるシーンがある。ジャン・ユスターシュは実在する映画監督であり、ヌーヴェル・ヴァーグの監督たちとも交流が深く、ゴダールなどの作品にも出演している。
・二人と同じアパートの怪しげな住人がテレビ番組で披露している(全然似ていない)ものまねは、アラン・レネ監督の『去年マリエンバートで』とドワネルものの前作『夜霧の恋人たち』でのデルフィーヌ・セイリグの演技である。
・日本人女性キョーコが残したメモに書いてあるのが「勝手にしやがれ」。

・女性の脚をクローズアップで捉えるシーンは脚フェチのトリュフォーらしい。クリスティーヌのおっぱいに名前をつけるというシーンも笑える。
・クリスティーヌがアントワーヌを起こすときに、羊を逆に数えるのが面白い。
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