彦次郎

蜘蛛巣城の彦次郎のレビュー・感想・評価

蜘蛛巣城(1957年製作の映画)
4.2
謎の老婆の予言から謀反をおこし成り上がった武将鷲津武時の末路を描いたシェイクスピア作「マクベス」に能の要素を取り入れた翻案版。監督の意図は分かりませんが個人的には破滅の美学に満ちたホラー映画の傑作だと思います。
ホラーとしては「蜘蛛手の森」で糸車を回しながら予言を呟く様が不気味な老婆がまず怖いです。終盤で救いを求める鷲津に「蜘蛛手の森が城に寄せて来ぬ限り、貴方様は戦に敗れることはない」と予言しますが結局これが破滅の原因となるわけで詐欺師なのかよく分からん怪異性がこれまた怖いです。
登場人物で言えば鷲津武時の妻である浅茅の悪女ぶりがやばいです。謀反をすすめ主君国春を槍で殺させ冷徹に片付ける様は非人間性の極致。自身がまさかの懐妊で友人の養子に迎えようとするのを拒み結果的には鷲津を破滅に導く辺りは現実にこんな人がいたら怖いと思わせます。「血が取れぬ」と手を洗い続ける発狂ぶりは山田五十鈴の名演技もありトラウマになりそうです。※発狂の場面はステージの中だけどわざと深夜に撮影、山田五十鈴は凄まじい形相で手を洗う仕草をくり返す演技を自宅で水道の水を流して自己リハーサルをくり返したとのことで黒澤にして「このカットほど満足したカットはない」と言わせた(wikipediaより)。
ハイライトは鷲津武時が動く蜘蛛手の森に恐慌をきたす味方達から無数の矢が放たれる絶望感と恐怖。ここで破滅が最高潮に至るわけですがギリギリまで恐怖から逃れようと粘る鷲津の表情がかなり怖いです。迫力と恐怖が入り混じったあまりにもインパクトのあるシーンで脳髄に刻まれました。もっともこの件についは本物の矢を射って撮影した黒澤明監督の狂気ぶりが一番怖いと思います。
一見剛勇と見えつつも実は小心かつ優柔不断で大悪党になりきれなかった男を演じた三船敏郎の演技力は特筆すべきでしょう。あれだけ大量に本物の矢を射られた俳優はいないのではないでしょうか(失明等の負傷がなかったのも凄い)。ここまで危険なことをされたら後年三船が散弾銃を持って黒沢監督の家に突撃したのも頷ける話です。

ここからは余談で備忘録です。
今作でフィルマークスでのレビューが1000件になりました。1件目は2016年1月の「ドラゴンボールエボリューション」。当時はほぼツレンタルでの鑑賞であったけど今は動画のサブスクリプションに移行していることを省みると感慨深いです。
いつもこんなレビューを読んで頂いたり、いいねやコメントをつけてくださりとても嬉しいです。皆様方には改めて感謝申し上げます。
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