彦次郎

野良犬の彦次郎のレビュー・感想・評価

野良犬(1949年製作の映画)
3.9
バスの中で実弾入り拳銃を盗まれた若き刑事村上がベテラン刑事佐藤とコンビを組み執念で犯人を追跡するクライムサスペンス。黒澤明監督作品としては9作目で黒澤明が三船敏郎と志村喬と組んだ作品としては3作目。
戦後間もない日本の風景としては当然なのでしょうが並木母娘が住むアパートや桶屋で遊佐が住んでいたスペースなどのボロさが後楽園球場の熱気やダンスホールと比較すると際立ちます。公開年が1949年ということもありまだ国民の暮らしが厳しさが女スリやチンピラとのやり取りにもにじみ出ていました。
作品の特徴としては後の日本の刑事バディものに影響を与えたとされる村上と佐藤の両刑事でしょう。前半は村上が単独で執拗にピストル売人まで突き止めるも強盗傷害事件が発生し辞表を出すに至るもベテラン刑事佐藤が出てくるという展開のため飽きないような構成になっています。この2人の個性が話を面白くしているのですがこの作品は個人的にはサスペンスが秀逸だと思います。犯人の顔が最後まで分からないので緊張感が持続し駅で真犯人を特定する場面で緊迫感が最高に高まります。”緊迫したシーンにあえて穏やかで明るい曲を流し、わざと音と映像を調和させない〈音と画の対位法〉という手法”(wikipedeiaより引用)もよくよく考えると斬新。刑事と犯人が似た過去を持つも対照的な人生を選ぶというところにタイトルの『野良犬』がフィットしているといえましょう。ラストシーンの佐藤刑事の台詞も印象的。
それにしてもバスの中で拳銃を盗まれるという超特大のミスをやらかしても世間(マスコミ)が大騒動にしない辺りに当時の日本の治安を想像させられました。
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