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ある結婚の風景の一人旅のレビュー・感想・評価

ある結婚の風景(1974年製作の映画)
5.0
イングマール・ベルイマン監督作。

結婚10年目の夫婦の崩壊を見つめたドラマ。

元々上映時間5時間のテレビドラマとして制作されたのち、劇場公開用に3時間弱の短縮版が編集された、スウェーデンの巨匠:イングマール・ベルイマン監督によるディスカッションドラマ。全6話に亘ってテレビ放映された5時間のオリジナル版は日本では2011年にDVD&Blu-ray化されましたが、今回は劇場公開された短縮版の方を鑑賞しました。

短縮版は1話30分前後/全6話から構成される夫婦ドラマであり、結婚10年目を迎えた大学助教授の夫:ユーハンと弁護士の妻:マリアンの夫婦関係の崩壊を描いていきます。夫婦の二人の娘や友人夫婦も登場しますが、劇中の大部分がユーハンとマリアンが二人きりで話し合うシーンで占められています。

子宝に恵まれ仲睦まじかった理想の夫婦が、お互いに本音を吐露し合う中でそれまでの関係に少しずつ亀裂が入っていき、やがて修復不可能なレベルにまで関係が破綻していく様子を、様々な場所で繰り広げられる夫婦の会話(ディスカッション)だけで見せていく家庭崩壊ドラマとなっています。

中流家庭の平穏な夫婦が音を立てながらその関係を崩壊させていく様子は普遍性に満ちており、夫婦という閉鎖的関係性の本質について鋭く問いかけています。本作は“平穏で幸福に見える夫婦の実像”に迫ったディスカッションドラマとなっていて、劇中の夫婦も最初は「私たちは幸せな夫婦だ」とお互い納得していましたが、改めて自分の心を見つめ直すと、そうではない事実が浮かび上がってくる。一見幸せそうな夫婦の隠れた本心を鋭く抉り出し、ノープロブレムだった夫婦関係に取返しのつかない変容がもたらされていく。それが、他人事では済まされない本作の恐ろしさであり、夫婦で本作を鑑賞して「(仲睦まじい)私たちには関係のない話だから」と気軽に一蹴することが許されないのです。事実、オリジナル版のテレビ放映後、離婚件数が急増したというデータまであるそうです。

主演はベルイマンにとって公私のパートナーだった名優:リヴ・ウルマンとエルランド・ヨセフソンで、画面いっぱいに映る二人の、次第に苛烈さを増していく本音トーク(&DV)が迫真の出来となっています。そして、絶えず夫婦を捉え続けた近接撮影は、ベルイマン映画に不可欠なスヴェン・ニクヴィストによるもの。
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