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お葬式のTSのレビュー・感想・評価

お葬式(1984年製作の映画)
4.0
【日本の葬式を的確に描いた佳作】85点
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監督:伊丹十三
製作国:日本
ジャンル:ドラマ・コメディ
収録時間:124分
興行収入:約12億円
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1985年日本アカデミー賞最優秀作品。
伊丹十三の有名作品。日本アカデミー賞も受賞した今作は、それまで映画の題材として取り扱われなかった「葬式」を扱ったため、非常に意義のある作品と言えそうです。葬式という笑えないものを題材としながらも非常にコミカルな作風であり、しかもそれが態とらしくないのが高評価になった理由であります。葬式といえど、当事者からするとこんな感じなんです。喪主の言葉なんてわからないですから事前にビデオを見て予習しますし、お坊さんへのお布施の相場料金なんかもわかりゃしない。総じてリアルすぎる。どこにでもあるリアルな葬式の一部始終を撮ったことを高く評価したいと思います。

雨宮千鶴子の父、真吉は一年に一度の定期検査から帰って来て機嫌が良かった。しかし、食事後に容態が一変。病院に運ばれるも帰らぬ人となってしまうのだが。。

この真吉は実はすごい人だったのだよ!とかそういう特殊な設定は特になく、雨宮真吉というごく普通の人が亡くなり、この人を丁重に葬るという一部始終を淡々と、しかし面白く描いた良作であります。思えば海外の人がこれを見たらどう感じるのでしょうか。日本の死生観というのを垣間見ることができるでしょうが、どこまで理解してくれるのか、、我々がキリスト教、イスラームにおける埋葬方法を見たら違和感を感じるように、間違いなく海外の人も違和感を感じるでしょう。そもそも埋葬方法で最もメジャーなのは土葬であるはずです。日本では火葬がメジャーと思いますが、キリスト教やイスラームは宗教上の観点から火葬を嫌がります。チベットにおいては死体を鳥に食べさせる鳥葬なんてものもあるのですから、人を葬るといっても様々な方法があるのです。

さらに火葬といってもそれまでの過程は国によってまた違います。日本においては1日前に通夜というものも行いますし、葬式当日にはお坊さんに御経を読んでもらいます。もちろん、これらは仏教的な観点から来ているものの、今では日本の葬式の常識とされているでしょう。その分細かな作法も多く、それに困惑する雨宮家が非常にリアルでした。葬式というのは極めて非日常的な儀式です。葬儀屋の人やお坊さんであれば葬式に出席して御経を読むという行為や、死者と接するということは日常的なのかもしれませんが、普通の人からすると間違いなく非日常的であります。困惑するのは当たり前でしょう。そして真面目にそれらの作法を行おうとしてもやはり感情が露わになるためうまく行えない。人間も完全な生き物ではないということを如実に教えられました。

そういえば最近葬式に参列したことがなく、ある意味幸せなことなのでしょうが、小学生の時によく葬式に参列したことを思い出しました。その時、通夜が何やら面白いイベントと思えてしまったのが、今思うと不思議な感じです。通夜にはたくさんの人が集まります。永遠に悲しんでいるというわけでなく、来た人に酒を振る舞い楽しい話が繰り広げられます。人が死んでいるのに不謹慎な、と思うかもしれませんがそれが実際の通夜というものでしょう。今作でもその通夜のシーンは的確に描かれていました。寿司を頼んで酒を飲み語らう。これが現実なのです。

個人的には遺体を焼却するボタンを押すとある男の発言が非常に印象に残りました。彼らはやはりそのボタンを押すことに躊躇いを感じるそうです。遺体といえど、人の体に火を放つわけですからその感情は普通と言えます。もし遺体ではなくて生き返ってしまったら、、ところで燃えてる最中に目覚めることなんてあるのでしょうか。考えたくもない恐ろしい事象ですがそれは一生わからないことでしょう。死人に口無しですから。

少し逸れてしまいましたが、今作はそういうどこでも行われている日本の葬式をコミカルに描いた点で非常に秀逸です。淡々な映画はつまらないという印象がありますが、今作はそうでもない。いわゆる「葬式あるある」が詰まっているので共感を持てますし、何よりも勉強になる。一度は見ておいても良い作品と言えそうです。
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