トリコ

仮面/ペルソナのトリコのネタバレレビュー・内容・結末

仮面/ペルソナ(1967年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

冒頭からグロテスクでショッキングな映像の連続に目を覆いつつ、これが50年以上前の映画である事に改めて驚きながら観ていました。
映像が受け手に恐怖と不安感、そして狂気を一気に植え付ける暴力性に圧倒されて映画の世界に引き込まれたオープニングです。
ストーリーの展開も自分語りや手紙等を介したものが多く、恐怖感を煽る短いカットもバンバン投入されてくるので、サイレント映画を観ているような感覚にも陥る感じでした。
ワンカットにとんでもない威力があったムルナウの映画やカリガリ博士を観て、なんだこれ!と衝撃を受けたのと同じような既視感を感じました。
ベルイマンが初めてなので、この映画の技法的な部分、画力の強さや破天荒さがこの人の特徴なのか、この映画だけの実験的な要素なのか?は判りませんが、かなり釘付けにされたのは確かです。

全体を通してもモノクロームですが白が強く美しいと感じるのはなんでだろう?と思いながら、病室も舞台となるだけに白を基調にした清潔感、というか簡素な雰囲気のせいかもしれません。
逆に別荘に行ってからは北欧らしい香具や食器に魅力を感じつつ、建物や調度品も大好きな建築家アルヴァ・アアルトのようなシンプルで落ち着きのある僕好みのものが多く楽しめました。

ストーリーは人によってはドッペルゲンガーと受け止めますし、人によっては多重人格、そして最初から一人の妄想、一つの人格が二人の間を行き交う。等と、要はグチャグチャした感じです。
とは言え、構成が崩れているのではなく、本筋のストーリーで追いかけていた話が途中で意図的に様相を変えていき、結局、何が正しいのか?を判らなく作っている話。
そして、何が正しかったのか?は最後まで受け手に委ねられ、映画は答えは与えてはくれないです。
こう言うと難解そうですが、あまり答えは追わずにシーン毎に醸し出される恐怖感を楽しむサイコホラーとして観てもいいのかもしれません。
また、判らないからと言って難しいという訳ではなく、むしろ映画の間、ずっと想像力を働かせ続ける事が心地よいとさえ感じる映画です。
デヴィッド・リンチが好きな方であれば、『マルホランド・ドライブ』と同じような感覚で、不可思議さの中の恐怖に引き込まれ、なんだろう?と想像力を働かせて観るけれど、結果、何のことか判らん!と思っても、映画の面白さが薄れることはない。というような類の作品です。

ただ、こういう意味不明系の映画ですと、作り手のしてやった感が鼻につくことが多いのですが、嫌味なく理解や想像を求めるのはこの映画の魅力なんだと思います。
一応、というか書く意味もなく、おそらく正解ではないのでしょうが、自分なりに思う所を纏めてみると、
アルマは本当はエリザベートで、エリザベートはアルマの中に巣くう架空の人間。と、そんな感じで観ていました。
アルマ目線でエリザベートを辿ると、警戒して、打ち解けて、憧れて、裏切られて、恨んで、詫びても許されず、復讐して、過去を暴き、無に帰して、一人で旅立つ。
と、復讐辺りで、エリザベートの旦那がアルマをエリザベートと呼び始めたり、過去も何故知っているの?と言う感じだったり、無に帰すのも自分の中から存在を消す事なのか?と思ったり、最後はアルマ一人になるし。
でも、そもそも"詫びても許されず"から"一人で旅立つ"の間は夢落ちっぽい描かれ方もしているし。
ただ、ペルソナと題売っている以上は、内面、外面を保つ人間性が描かれてはいるんでしょうね。
役者として演じる理想の自分、欲望と嫉妬と復讐に満ちた醜い自分。
内面の自分であろうとするほど、周りと馴染めずに苦しみ、外面の自分を出せば余りにも弱い。
結果、エリザベートは内面のアルマとして生きていく事を選んだんでしょうが、果たしてそれが幸せなのか?
なんでしょうね?やっぱり正解を追うよりも、80分の間、この映画の世界でグルグルと頭を巡らせておくのが楽しい映画なのかもしれないですね。

ブログの方では、個人感想の詳細とネット上での評判等を纏めています。
興味を持って頂けたら、プロフィールから見て頂けると嬉しいです。
トリコ

トリコ