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仮面/ペルソナのレのレビュー・感想・評価

仮面/ペルソナ(1967年製作の映画)
4.0
フロイト〜ラカンの精神分析を背景に作られた映画。冒頭の「患者はヒステリーではない」は、神経症/精神病 の区分で患者が後者にあたり、象徴界の機能不全であることを意味するもの。アルマの口走る「私はエリザベスじゃない」はフロイトの【否定】、憧れの人から見捨てられる不安は、ラカンの【大文字の他者】不全、みたいな感じで、とめどなく典型的な症例が出てくる。自分は何者なのか語れなくなってしまった状態を取り上げ、人の認識に迫っていく作品。

顔のクローズアップを撮る→その顔は、視線を動かすまでは決してまばたきしない、というショットを重ねる演出に痺れた。まばたきを確かめようとすれば、観客も同じようにまばたきを禁じられるから。こうやって視線を共振させながら、映画の中の規範を観客に内面化させるのか、と思うと、恐ろしさすら感じた。小さなガラス片を使った鮮やかな場面も、最初から最後まで不気味なくらい美しい画面も、観ていたくないのに魅入ってしまう怪しさを持っていた。凄い。

ただ、精神分析と映画が切っても切れない仲なのは仕方ないとして、それを逆手にとった産物としてこんな映像を観るのはかなり居心地が悪かった。精神分析のテキストから引いたようなエピソードの連投、湖面や鏡の意味深長な使い方に胸焼けがしたし、不穏さを煽る音楽も大仰すぎる。そもそも、『エレクトラ』を演じた女優が失語になるという設定が露骨すぎて白ける。凄くてもあまり好きになれない映画だった
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