レ

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスのレのネタバレレビュー・内容・結末

2.8

このレビューはネタバレを含みます

トッピング全部乗せみたいな映画だった。カンフーアクションで、ハイファッションがあり、アジア人俳優で主役を固めて、流行りのマルチバースで、さまざまな過去作品の意匠を取り入れ、息子の父殺しではなく母娘の対立で、さまざまな隠喩を張り巡らせて、という……でもあんまり面白くないという……。

SF方面の試みはそんなにひどいと思わないが、致命的に家族の物語がうまくいっていない。

序盤、主人公が喧嘩別れしそうな娘の車に駆け寄るシーン。窓越しに「愛してるわ」みたいなことを言うのかと思いきや、セリフは「あんた太りすぎ」で、観客は「嫌な母親〜!」と思う。そして、やり直し系のフィクションだから後半で言い直すのかと思いきや、同じシーンのやり直しでまた太りすぎだと言う。そこがこの作品の味といえば味だが全然よくない。

主人公は、やり直し後の世界でも娘の恋人に「髪伸ばしな(女の子らしくしな)」と言うし、娘が電話してこなくなったのを自分の無理解ではなくジョブ・トゥバキのせいにしている。
要するに最初から最後までこの母は娘のことをなんにもわかってなくて、感動家族モノとして観るにはその辺でかなり目が醒めてしまうのだ。

製作陣としては、家族愛はそんなモラルとは離れたところにあるのだ、と言いたいのかもしれない。たしかに流行りのLGBTQ (クィアな人たちがいつの時代にもいるのは前提として、あえて流行りのという言い方をしています)への理解なんかなくても別にいいけれども、最後に母娘で分かりあうのは「お互いが考えていることの深さ」ではなくて、「並行世界がぜんぶわかっちゃうけれどもそれでもここにいる」ことで、そんな非現実的なコミュニケーションで現実的な家族のコミュニケーションを全部置き去りにするのは単純に脚本上の不手際なのではと思ってしまう。この映画が祝福しているのは家族のなかにある関係や愛情ではなくて、ただ単位としての家族なのだ。

たとえ、「家族がつらい、でも家族だから離れがたい……」みたいな引き裂かれた感覚がテーマだとしても、ドランとかデプレシャンとか、はるかにうまくやってる作家がたくさんいるわけで、なんでこの筋書きがこの時代にこんな形で世に出ていくのか(しかもアメリカから)想像しがたい。

わかったよ、トゥバキ。俺達も絶対にこのタイト・ロープからはおっこちないようにする。誓うよ。


【以下メモ】

・そもそもうっすらA24のアンチなのだが(20センチュリーウーマンのように好きな作品もあるが)、その気持ちがさらに高まった

・いい画を撮るぞというやる気が感じられず、なんか制作会社的な発想で予算を流し込んだような印象を受けた。コンマ1秒も映らない並行世界のグラフィックを何百枚も生成するみたいなね

・そもそもスローモーションをこんなに使われると映画として観れない

・一番よかったのはポメを分銅に使うシーンだった

・高原に岩が並んで会話するシーンもけっこうよかったけど、途中で目がくっついて耐え難くなった

・アジア系移民の一世代目と二世代目の断絶こそが最重要のテーマで、あのわかりあえなさをリアルにやることに価値があるのかもしれない

◉ぽい
・最初、すごくスローターハウス5っぽいなと思ったが途中からそうでもなかった(間違いなく参照してはいるだろうけど)
・親子の争いが世界の存亡にまで発展するのがエヴァっぽい
・情報量の多さやマンガっぽい想像力やカッコつきの多様性やマルチバースものの感じがスパイダーバースっぽい

◉隠喩
・ギョロ目のシールがうざい……
・ソーセージがうざい……
・鉄板焼きもピザもうざい……
・トロフィーをアナルに入れるのっておもんないやつのアイディアじゃない?
・ちなみに宇宙の旅とかの引用もうざい

特に意味もなく感想の最後にタナソーの文章を引用してしまうけど、よく考えたら10年前に廃刊した雑誌の20年前のネタを擦ってるわけで、おれはなにをやっているのだと突然我に返りました。


俺達はやるよ。
レ