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君たちはどう生きるかのレのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

階級社会が変わるさまを寿ぐ映画ではないかと思った。自由に生きろ、勝手に生きろと言っている。

同じことを感じた人は多いと思うが、脳内のサイケデリアの横溢と破綻においてゴダールの『イメージの本』を、先行する価値観との決別においてエヴァを思い出した。内容としては社会の中で個人がいかに生きるかみたいな話なので、ある意味原作を踏襲しているのかもしれない。
以下、劇場を出て一度もググらないまま書いた個人的な整理

構造的な下地としては、異世界のペリカンは流浪者というか被差別者で、インコたちは二次大戦前の平民の民衆のように見える。大王(東條英機すぎると思ったが……)はその頭領である。しかし世界を治めているのは大叔父(天皇制)で、血筋が重要である。積み木を積めというのは家業を継いで封建的な社会を維持せよということで(「エヴァに乗れ」と同じ意味である)、主人公(まひと=皇族の名前≒まれびと?)はそれを拒む。
そのような出来事は日本国全体でも起きたし、ごく個人的な転換も起きた。ひいては、私たちは変わることができる。友を作り、自分が生きる世界における役割を探し、あとは勝手に生きろと、そういうことを言っている映画だと思った。

と書いてみたが、本当はそんなことはどうでもいい、作者の意図とか。書きやすいから書き始めただけで……答え合わせじゃないんだから。とにかく自由に生きろというフィーリングが大事だと思う。

最後に観たアニメがスラムダンクの映画だったから忘れていたが、よく考えたらあれは(私が見たい)アニメではなかった。そういうことを最初から思い出させてくれた。階段を登り降りする、遠くで建物が燃えている、群衆の中を駆ける、人も建物もぼやけながら通りすぎていく、あのときの線や面の動きを見るのがアニメの醍醐味だった。

ただ今回、思わせぶりな隠喩設定が多すぎたことを残念に感じた。隠喩をくぐらなければ作品の核が見えてこないのではないかと感じた。
たとえば千と千尋は、異界に迷い込んだ少女が労働に従事したのち、川の神様との間に成立する、恋愛とも友情ともつかない感情が元の世界へ帰る手立てに通じていく不可解な話である。しかし空を落下しながら千尋とハクが手を握るところでは、誰もが涙を流したのではないかと思う。ひるがえって今回は、心の動きやアニメーションをたびたび設定が上回っていたのではないか。

しかし、とにかく観客のポケットに小石を入れにくる映画ではあった。忘れるか覚えておくかは観客の勝手だが、とにかく宮崎駿は何かを手渡そうとしている。思えばジブリの映画は、いつも観客にとって異界への入り口だった。私たちがこの映画を観る理由は山ほどある。
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