三畳

失われた週末の三畳のレビュー・感想・評価

失われた週末(1945年製作の映画)
4.5
「酒は夜は飲み物、朝は薬」
楽しい時→飲む 辛い時→飲む
頑張りたい時→飲む 頑張れない時→飲む

依存症はまさしく病気。
酩酊した自分が隠した酒の場所を忘れて、自宅を空き巣のように荒らす姿は狂気。

献身的な恋人と、兄の、涙ぐましいフォローにも、
一切の良心の呵責も見せずに、嘘をつく。
それなのに電話の音は正論で責め立てるかのように鳴り響いて、
間違っていることはわかっているのに治せない。

心配してくれてる恋人を避け続け、
浅い関係の女友達にキスして金をせびるのは興味深かった。
どうしようもないけど、
それほどまでに愛している人に醜態を見せたくないことの裏付け。

叱ってくれるバー店主も、依存症病棟の看護師も
ああこれなら救われると思える頼もしさが溢れてる。
なのに…こんなに恵まれているのに、幼児のように何度でもするりと救いから抜け出し自ら溺れに行く。

いい大人が情けないことだけど、
酒に飢えて必死で求める目つきはおなかをすかせた孤児なんだよな。
あらゆる知恵を絞るのも生きるために仕方ないとさえ思えてくる。


特に「酒飲みなくらい、横領犯や殺人犯じゃなくてまだ良かったわ」を見事に回収するようなレストランでの一連の流れは「自転車泥棒」に似た理不尽な緊張感があった。


または、酒は悪魔だという通り、まさに体を別の意思に乗っ取られたようで、
自分の中に棲む化け物のために常に供給し続けなければならない体はとっくに自分のものじゃない。


過去のちっぽけな栄光にすがるタイプは凡人より厄介。なまじ才能が多分本当にあるためにプライドが高くて、クズになりきれずに苦しむ姿は太宰治とかぶった。
意気込んでタイプライターに向かって、タイトル・著者・献辞を書いたあともう何も思い浮かばない。


というかタイプライターって後戻りできなさそうだから、いきなり小説を書くのには向いてない気がする。手書きで構想を書き出したらいいのに、形から入るところが見てて辛かった。


吹き替えと字幕両方観たけど圧倒的に吹き替えがおすすめです!
字幕先に見てたら☆3で終了してたかも。

終盤の彼女の畳みかけ台詞に胸打たれっぱなし。

「ラストが思い浮かんだわね」と言い切ってくれて、泣きそうになった。


クロークに預けたコートの入れ違いをきっかけに出会った二人。
それが3年後にはコートを勝手に質に入れられ、仕方なく彼のを借りてるのに、初めて出会った日みたいねはエモすぎ。このへんの巧みさはさすがビリーワイルダー。

エピローグもかっこよすぎ。


笑っちゃうとこも結構あった。観劇してて出てくる飲み物にまでジト汗で欲したり、やけにチープなコウモリとか。


気になった文化

・質屋のシンボルは3つの球

・レストランのトイレにはスーツ着た黒人スタッフ?がいて、手を洗ってる最中にほこりをはたいたり靴を磨くサービスをしてくれる。

・そこらじゅうで椿姫やハムレットをやっててうらやましい。
三畳

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