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007 スカイフォールのtakのレビュー・感想・評価

007 スカイフォール(2012年製作の映画)
4.0
「007」シリーズ50周年となる第23作「スカイフォール」は、シリーズ最大のヒット作となった。ボンド役に起用されたときは、賛否両論だったダニエル・クレイグも3作目。今でも一部の人々からは"悪役みたい"と言われがち(「ロシアより愛を込めて」のロバート・ショウのイメージが重なるのだろう)。しかしそういう人々って意外と「カジノ・ロワイヤル」以降のボンド映画を観ていない方々がかなりいるものと思われる。食わず嫌いしているのだ。いかにしてジェームズ・ボンドが一人前のダブルオー要員となったかに迫るのが「カジノ・ロワイヤル」と前作「慰めの報酬」だった。愛する女性を失って未練と復讐が心から離れない若きボンド。荒々しく、ユーモアを排した作風、そして復讐という私心を超えて任務を全うできるスパイに成長したところまでが前作。2作品をかけた人間ドラマ路線で、ジェームズ・ボンドと名乗るにふさわしい男だと世間に認められたと言っていいだろう。そしてダニエル・クレイグ3作目「スカイフォール」。そろそろ従来の娯楽路線?と思いきや、50周年記念作品が追い求めたのは「ルーツ」だった。

M(ジュディ・デンチ)が関係する過去の事件にまつわる謎をめぐって、MI6が危機に陥る物語。息詰まるノンストップアクションのプレタイトル。観客は一気に引きずり込まれる。ところがMの指示で放たれた弾丸は不幸にもボンドに命中し、彼は水中に落下。アデルが歌う主題歌、水中に広がる血をモチーフにしたタイトルバックは、女性の曲線美と拳銃のデザインで往年のファンを唸らせてくれる。今回の悪役はスペインの名優ハビエル・バルデム。彼の素性を明かすとネタバレになるので控えるが、彼はMI6そしてMへの復讐を企んでいるのだった。職務に復帰したボンドは世界とMを守り抜くことができるのか?ってお話。

イスタンブール、上海、マカオも登場するが主たる舞台はイギリス。ロンドン五輪の年だし、ボンド映画50周年だしイギリスをフィーチャーするのは、「ルーツ」を追う故なのか。「カジノ・ロワイヤル」「慰めの報酬」の内容そのものがダブルオー要員としてのジェームズ・ボンドのルーツではあった。それはボンド映画には本来似つかわしくない成長物語だった。「スカイフォール」はさらに、個人としてのボンドのルーツに迫る。これはイアン・フレミングの原作でもあまり触れられたことのないテーマだと思われる。スコットランドの荒野に建つ古びた建物が故郷として登場し、両親の墓標まで映し出される。ボンドのプライベートは初期に少しだけ描かれたエピソードがあるが、生い立ちにまで迫るのは驚きだ。身寄りのない男性だからスパイとして抜擢したということまで明かされる。僕はスコットランドの荒れ野の風景に立つボンドの姿を見てエミリー・ブロンテの「嵐が丘」が頭をよぎった。愛する人を失って孤独に苦しんでいた少年時代、前作までで若きスパイとしての荒々しい活躍。僕はボンドのルーツは「嵐が丘」のヒースクリフなのではないかと思えた。そんなボンドにとってのMの存在は・・・。人間ドラマ系ボンド映画としては完成度の高い秀作である。

Mが審問会でMI6の存在意義を説く場面も印象的。国と国が対立する冷戦時代にスパイ組織が果たしてきた役割とは確かに違ってきた。今だからこそ未知の敵と対峙しなければならないのはMI6だと訴えるジュディ・デンチは迫力があった。映画のクライマックスのボンドとの信頼関係を伺わせる台詞も泣かせる。往年のファンにとっては、ボンドカーの代表たるアストンマーチン再登場には大感激。毎回新装備をボンドに提供するQが復活したのも嬉しい。ただこれまでのQは発明家のイメージだったが、今回はパソコンヲタク。レイフ・ファインズがレギュラーとして登場することになるのも嬉しいね。ハビエル・バルデムの悪役と言えば「カントリー」だけど僕は未見なので比べられないが、冷酷さといい気味悪さといいシリーズ屈指の存在かも。次作がどうなるのか楽しみ。ダニエル・クレイグになってからの人間ドラマ路線が続くのか、それともM、Q、マネーペニーと役者がそろったところで伝統の娯楽路線に戻るのか?。
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