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シンプル・プランのGreenTのレビュー・感想・評価

シンプル・プラン(1998年製作の映画)
3.0
自分ってつくづくゲス野郎だなあ〜と感じさせられる映画でした!

ハンク・ミッチェル(ビル・パクストン)は、ミネソタの小さな町の飼料工場の会計士。地元の図書館で働く妻のサラ(ブリジット・フォンダ)は妊娠しており、慎ましやかで幸せな生活をしていた。

毎年クリスマスには母親の墓にポインセチアを供えに行くので、ハンクの兄ジェイコブ(ビリー・ボブ・ソーントン)がトラックで迎えに来る。

ジェイコブは親友のルーを連れてくるんですけど、2人とも無職で素行が悪い。

農家の鶏を盗んだキツネがジェイコブのトラックの前を横切り、ジェイコブは木に激突してしまう。ジェイコブとルーはキツネを狩ろうとライフルを持ち出すが、ハンクは「ここは自然保護区だから狩りをするべきではない」と言う。ジェイコブとルーは「借りを返してもらうだけだ」とキツネを追いかける。

このシーンで、ハンクは常識があってまともないい人、ジェイコブとルーは自堕落な生活を送っているダメ人間って感じに描いているので、この後3人が墜落した小型飛行機の中から死んだパイロットと$4.4ミリオンものお金を見つけたとき、ハンクがお金をしばらく預かるというのが最良の方法に思える。

ジェイコブとルーは、どうせ違法な金なんだから、取っても盗みじゃないと言うんだけど、ハンクはバレたら捕まると、最初は常識的なことを言ってるんだけど、だんだん「バレないかも」と思い始め、「お金に目がくらんだ」状態になってくる。

私は「バカだなあ〜、違法の金だったら、ヤクザな人たちが必ずやってきて殺されるし、合法な金だったら、通しナンバーが付いているハズだから遣ったらバレちゃうから、素直に通報した方がいいのよ」って思ったけど、「人のお金をとってはいけない」という理由ではなく「どうせバレるから止めとけ」という打算的な考えしかないことに自分で愕然としました(笑)。

しかしハンクの立場になったら、難しいなあ。自分は取らないと決めても、通報しなかったら偽証罪になる?でもあとでコッソリ自分だけ警察に言いに行くっていうのはあんまりだから、正直にジェイコブとルーに「警察に通報しよう」と言うべきだけど、2人はお金なくて必死だし、ライフル持っているから殺されかねない。こういうことには関わりを持ちたくないですね。

しかもジェイコブとルーは絶対、「大金が手に入った」なんて平気で吹聴して歩くタイプに違いないので、ハンクが預かってほとぼりが覚めるまで寝かす、って言うのは、盗むのであれば一番いい方法のように思える。

いずれにしろ、お金のせいで色んな歯車が狂っていく、っていうのはこういうお話の定番なのですが、この映画はその見せ方が上手くて、すっごい考えさせられます。

まず、ハンクはその辺にいる真面目ないい人で、ジェイコブはハンクのお荷物に見えるのですが、2人の会話を訊いていると実情はちょっと違うんじゃないか、と思えてくる。

ハンクは、父親はアル中で、自分で農業をやろうとしたけど失敗し、車で事故って死んだと思っている。だけどジェイコブは、家業が上手く行かなかったのはハンクの大学の学費を払うのにお金がかかったせいで、父親の車の事故は保険金を得るための自殺だったと言う。そしてハンクは毎年クリスマスにしかお母さんの墓参りに行かないけど、ジェイコブはもっと頻繁に墓参りをしている。

ハンクはこの小さな町で数人しかいない大学出でインテリを気取り、ジェイコブやルーを見下しているようなんだけど、ジェイコブの目から見ると家族を犠牲にして自分だけ大学に行っていい仕事を見つけ、両親が苦労したことなんか全く知らないハンクが周りからいい人扱いされているのを、実は快く思っていない。しかもハンクが大学へ行くために失った農場はジェイコブが継ぐハズだったのに、と映っている。

この家庭事情プラス、お金を自分だけでせしめようと、ハンクの「インテリジェンス」はどんどん「悪知恵」になってくる。まあ良くもこんなに次から次へと最もらしい作り話が出てくるもんだなあと思わされる。しかもハンクの「大学出で頭のいいいい人」というイメージで、みんな曖昧な話でもハンクが言うと信じる。ハンクもそれを分かっていて利用する。

その上、可愛らしく慎ましやかだった奥さんのサラが、お金を見た途端に人が変わる。探偵さながらにお金やジェット機のことを過去の新聞記事で調べたり、「疑いを持たれないように」とか「バレないように」とか色んなことを巧妙に画策し始める。

これって「ああ、良くある、旦那より奥さんの方が実は頭がいいパターンね」と思う。こういう知恵を日常生活で生かして旦那を昇進させれば良いのに!って思ったんだけど、多分この奥さん、お金を見るまでは自分の生活に不満なんてなかったんだろうね。

この奥さんが「普通の生活」に対する不満をハンクにぶちまけるシーンがあるんだけど、それを聞いていると、それまでは「幸せな生活」って思っていたのがお金を見たせいで180度ガラっと変わったんだな、って気付かされる。

で、ハンクも「父親のようなダメ人間にはならない。農業なんてやらない」って大学に行ったけど、結局小さな町で会計士やって慎ましやかに暮らしていて、思っていたような人生ではないんだろうなあと思わされる。

ジェイコブとルーが落ちこぼれなのも、最初はなんとかしろよ、って思ったけど、ハンクが学歴を得るためにジェイコブを犠牲にしたってのが、資本主義って結局、他人を踏み台にしても平気な人が台頭していくってことだよな、カラスがそれを象徴しているのかなと思うし、最初に出てきた鶏を盗ったキツネが自然保護区で保護されているっていうのも、ハンクのような他人を犠牲にしてぬくぬく生きている人が保護されている資本主義社会を描いているのかなと思った。ジェイコブとルーが「借りを返してもらうだけだ」って言うのは、踏み台にされた人たちの本音なんだろうなあ。

私もそういう資本主義の恩恵を受けている人間なんだなあと考えさせられるけど、だからと言って心を入れ替えようとも思っていないのが怖い(笑)。
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