アニマル泉

第七天国のアニマル泉のレビュー・感想・評価

第七天国(1927年製作の映画)
5.0
フランク・ボーゼージの手腕が光る傑作メロドラマである。「高さ」の映画だ。チコ(チャールズ・ファレル)は地下水道の掃除夫、上からゴミや排水が流し込まれる、まさにどん底の仕事だ。かたやダイアン(ジャネット・ゲイナー)は階段上の安アパートで床に寝そべり姉ナナ(グラディス・ブロックウェル)に虐待されている。ダイアンがナナにムチで打たれながら逃げるのを部屋から外の通りまでワンカットのトラックバックで追うのが素晴らしい。ダイアンがナナに首を絞められて絶体絶命のところをマンホールからチコが飛び出して助ける。オープンセットの道が坂になっているのがいい。ダイアンは寝そべる、チコは座る、とにかく地べたが強調される。この出会いの場面、チコとブール(アルバート・グラン)とラット(ジョージ・E・ストーン)が地べたに座り夜ご飯を食べて、その傍でダイアンが荷車の車輪に呆然ともたれかかっているかなり長い場面なのだが、ボーゼージのグループショット、タイトショット、アップの的確な切返しが見事で惚れぼれする。特にチコごしの奥に荷車にもたれるダイアンのツーショットは二人の運命を見事に暗示する美しいショットだ。
チコの部屋まで1階から7階までワンカットでクレーンアップするのが圧巻だ。チコは空に一番近いこの部屋でいつも上を見ている。ダイアンとチコにとって7階の部屋が天国になる。淀川長治によれば少年時代に本作に感動した永六輔がやがて名曲「上を向いて歩こう」を書いたという。
ジャネット・ゲイナーが素晴らしい。チコの上着に一人で抱きしめられる至福のショットが忘れ難い。「私、幸せに慣れてないの」誠実で可憐だが勇気を持って戦うというハリウッド映画のヒロインを見事に体現している。チャールズ・ファレルもハンサムでやんちゃで人が良くて女性には奥手という理想のキャラクターを確立している。
後半は戦争になりチコが招集される。2人だけで部屋で挙げる結婚式が切ない。引き離された2人は毎朝11時に「チコ、ダイアン、天国」と祈り合う。
戦闘場面の兵士や車輌の物量が凄まじい。戦場は「火」で燃え上がる。本作の前半は下水掃除夫のチコが道路清掃人になる物語で「水」が主題である。「火」と「水」が好対照になっている。
戦争とラブストーリーはこの後ハリウッドで様々な作品が作られる。本作はそのプロトタイプである。
ダイアンがのぞく扉の覗き窓がいい。
「神はいま自分の中にいる。いつも僕の目は君でいっぱいだ」
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