アニマル泉

江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者のアニマル泉のレビュー・感想・評価

4.3
原作・江戸川乱歩、脚本・いどあきお、監督・田中登、出演・宮下順子、石橋蓮司。
田中登は「高さ」の監督だ。本作は絶好の題材である。文字通り屋根裏の天井から真下を覗く節穴、その見た目の俯瞰ショット、節穴からモルヒネを垂らそうと下ろされる糸、清宮美那子(宮下順子)が車から降りて日傘を差しながら下りてくる坂、郷田三郎(石橋蓮司)が宙に突き上げ指、ラストは関東大震災で建物が落下する。「高さ」の主題にこだわってきた田中登ならではの作品だ。
美那子が天井の節穴から覗かれているのに気づいた瞬間から郷田は「目」と化してしまう。郷田は美那子の目になり、美那子は見られる事でエクスタシーを感じる。見つめ合う関係になる。美幸(渡辺とく子)を美那子と郷田が締め殺す場面も二人は見つめ合ったままだ。
美那子と郷田が高さ=距離を介した見る=見られる関係に堕ちていくのに対して、美奈子は周りの下僕たちは距離ゼロの接触した状態で殺していく。拾われたピエロ(夢村四郎)は性玩具と化し、美那子の両足で締め殺される。蛭田(織田俊彦)は人間椅子となり、美那子と密着したまま薬物で窒息死する。人間椅子に身を委ねて、中にいる見えない蛭田に語りかける美那子の恍惚。視覚が無効になり、ひたすら触覚で殺人を重ねていくのである。
「高さ=距離」「密着=触覚」「見る=見られる」の主題とともに重要なのが「赤」の主題だ。赤い人間椅子、美那子の赤いドレス、ピエロの赤い化粧、夫・清宮(長弘)をヒ素で殺す赤ワイン、砕けた陶器の破片を拾おうとする蛭田の手を足で押し潰して流れる血、美那子はその血だらけの破片で蛭田が潜む人間椅子の上で自慰する、天井の節穴から流れ落ちる美那子と郷田の血、「あなたの血が私を呼んでいる」というセリフが印象的だ、そしてラストシーン、関東大震災の廃墟の中で生き残った女中の銀子(田島はるか)が歌いながらひたすら井戸のポンプを押し、その水がどんどん真っ赤な血に染まっていく。
「円」の主題も興味深い。もちろん天井の節穴、そして目玉、ピエロの水玉、美那子の日傘など本作を「円」が彩っている。
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