次男

パリ、テキサスの次男のレビュー・感想・評価

パリ、テキサス(1984年製作の映画)
4.3
江國香織さんの『神様のボート』という本がありまして、一番好きな本、かどうかはわからないけど、一番繰り返し読んだ本です。

葉子さんというお母さん、草子ちゃんという娘、母娘二人の人生の話です。
葉子さんは大好きな人と出会って、草子ちゃんを生んで、でも大好きな人は「いつか迎えに行くから」と言って、姿を消しました。
「あの人と出会ってから、お母さんは『神様のボート』に乗ってしまったの。だから、私は、ひとつのところに留まることはできないの」。
葉子さんはそう言って、草子ちゃんを連れ、二人きりでいろんなところを転々と渡り住みます。

その小説は、草子ちゃんがお母さんから聞いた話で始まります。
「私が発生したのは、シチリア島で、お母さんはパパが作ったすごく甘いカクテルを飲んでいた。二杯目を飲んだとき、お父さんはたまらなくなってお母さんを抱きしめて、私はそのとき発生したらしい。お母さんの話は信じられない話も多いし、私はもちろんそんなこと覚えていないけど、その話は本当だと思っている。」
うろ覚えだけど、こんな風に始まります。

◆◆

車でルート66を走ったり、ひたすらに旅をする映画をロードムービーというんだろうけど、この映画がロードムービーなのは「車で移動をするシーンが多いから」ではないような気がする。

『ポンヌフの恋人』を観たとき、「愛は呪いみたいだ」と思ったけど、この映画を観ながら、違う言葉で同じ思いを抱いた。その違う言葉が、適切なものが思い浮かばなくて、結局、人様の言葉だけど、『神様のボート』だと思った。


映画なら、男女二人が両思いになったら終わるし、結婚したり、なんかの節目で終わる。でも、実際はハッピーエンドなんてこない。エンドなんてないし、感動的な大団円にも必ず次の日はあるしな。だから僕は「変わらない愛」とか信じない、嘘くさい。「安息の地はない」のほうが、ずっと信じられる。

「安息の地はなくて」、愛は変わるから、証拠みたいな場所や思い出が、大事なランドマークになる。それは、例えばシチリア島のあの瞬間だったり、例えば「パリ、テキサス」だったりする。でも、それらは同時に出発点になってしまう。道のりと時間が生まれて、願わずとも、旅になってしまう。出港したら、ボートは止めれんのです。

この映画は、そんな意味でロードムービーだと思うのです。極上に素敵で苦いロードムービー。



「4年は、長い間なのか?」
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