ヨウ

第三の男のヨウのレビュー・感想・評価

第三の男(1949年製作の映画)
4.0
チターの音色が時に軽妙に、時に不安を掻き立てる様に響くのが印象的だった。

白い建物の壁に写し出される人物の大きな影、
暗闇の中で、灯りに照らされて浮かび上がる不気味な白い顔、下水道の逆光の中を逃げる人影…

白黒映画だからこそ表現出来るものを、最大限に
写し出し、魅せてくれた。例えば同じ内容の物語をカラーで撮影したとしたら、ここまで後年の評価が高かっただろうか。やはり光と闇、その陰影の中に浮かび上がらせたものが素晴らしかったからの評価なのだろう。
特に光と影の表現を、ハリーとホリーの二人の心理描写にまで高めた点に惹きつけられた。

敗戦後、ウィーンの極めて政治的に複雑な統治の中でのドラマは興味深く、文化的素養に欠けるホリー・マーチンが戦勝国アメリカから来て、この破壊された歴史的な街を心許なく彷徨うのも皮肉が効いて、印象的だった。

親友の死の真相を探るサスペンスドラマの部分はきっと本質ではないのだろう。(そもそも、ホリーがこの街に呼ばれた理由が分からない)
この時期のウィーンの街を舞台に、それぞれに象徴的なものを表している人物達が、光と影の中で善悪の真理を炙り出そうと、織り成す事が秀逸なんだと感じた。

出演時間は短いにも関わらず、ハリーライムを演じたオーソンウェルズの圧倒的な存在感は、言わずもがなだった。

並木道のラストシーンは、歩いてくるアンナが待っているホリーの横を通ろうとする場面は、観てるこちらも緊張がはしる。この映画で正義とされるホリーに手を差し出すのか、眼もくれず通り過ぎるのか…

他国から亡命し、ハリーに貰った偽造の身分証明書を持ち歩いていたアンナには光(正義)だけでは生きられない現実があり、影の部分で、ハリーと根源的に重なったからこそ、あれだけ焦がれる気持ちも強かったのだろう。
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