YasujiOshiba

アンナのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

アンナ(1951年製作の映画)
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イタリア映画コレクション『2ペンスの希望』(コスミック出版)より。

ラットゥアーダは、前作のフェリーニと撮った『寄席の脚光』が大コケして、多額の借金を背負ってしまう。経済的に挽回するため、当時人気だった感傷的でお涙頂戴のメロドラマを監督することになる。こうした観客受けする一連の作品を、アドリアーノ・アプラは「通俗的ネオレアリズモ neorealismo d'appendice 」と呼ぶ、それなりの評価を与えたという。

たしかに『寄席の脚光』が大衆的かと言われると、たしかに分かりにくいところがあったかもしれない。すごく良くできているとはいえ、観客がはいらなければ映画は成立しない。その意味で、この作品でラットゥアーダは妥協をしいられたわけだ。

とはいえ、「通俗的映画 film d'appendice」が悪いわけではない。それはそれで映画なのだ。お涙頂戴のどこがわるいというのか。それはそれでひとつの歴史ではないか。それだけではない、こうして時代を経て見直してみれば、当時の最新技術だった外科医療の世界を、ある種の希望を持って見つめている眼差しが、なんとも新鮮だ。

交通事故でかつての恋人が運び込まれて来るとき、主人公の美しい尼僧がその過去を振り返る。浮かび上がって来る悲恋。シルヴァーナ・マンガノの尼僧アンナは、まだ見習い期間中とはいえ、みごとなまでに清純。ところが思い出の中のアンナがナイトクラブで踊り歌う『El Negro Zumbon』は、圧倒的に濃艶。この清純と濃艶の間にはいる小悪党を演じるのがヴィットリオ・ガズマン。悲恋の相方がラフ・ヴァローネ。

けれども、今にして興味深いのはその背後にある救急病院の医師や看護婦や尼僧たちの姿。見習い尼僧のアンナを評価する優秀な外科医師フェッリ。演じるのはフランスの俳優ジャック・デュメニル。そして、吹き替え女優としての知られるディーナ・ロマーノが、その小さな体で演じる口喧しい尼僧の存在感。ふと見せる優しさにグッときてしまう。

また、ベッドで寝ている病人のなかには、なんとデ・シーカの『自転車泥棒』(1948)で主人公アントニオを演じたランベルト・マッジョラーニの姿。そして、ナイトクラブで小悪党ガズマンにメロメロの女の子を演じたのはソフィア・ラッザロ、後のソフィア・ローレン。1950年のミス・イタリアで注目されたが、映画では端役ばかりで無名のころ。

目的はニーノ・ロータの音楽だったんだけど、圧倒的な存在感のあった El negro Zumbón はロータのものじゃなく、スペイン語の歌詞に、アルマンド・トロヴァヨーリが曲をつけている。
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